第二話「ドロドロスライムはカレーの神?」
スライム――それは、ぷるぷるで、ドロドロで、うまい。
今日も俺は、その神秘に魅せられていた。
* * *
「これは……匂いがすでに、カレーなんだが!?」
目の前の沼にぷかぷか浮かんでいる、茶色く濁ったスライムたち。
ふわりと香るのは、どこかスパイシーな風。鼻に残るのはクミン、ターメリック……いや、間違いない。カレーだ。
「この個体、古代スライムの亜種かもしれないわね」
「名前は?」
「“ドロドロスライム”。別名“味の暴力”」
マリーネの説明によると、こいつらは周囲の食材を取り込み、内部で自然発酵させるというエコなスライム。
だから匂いも味も、どんどん濃くなる。つまり――
「こいつ、体内でカレーを育ててるんじゃね?」
「やめて!それ以上近づくと……!」
――ぶよん。
言う前に、俺はすでにスプーンでひとすくいしていた。
ドロドロスライムの表面をすくって、口へ――
「…………!」
スパイス。コク。トマトの酸味。野菜の甘味。
そして、何より……自然の旨味。
まるで、100時間煮込まれた高級カレーが、スライムの形でここに存在していた。
「……これ、やべぇ。うますぎて思考止まる」
「ちょ、ちょっと待って。さすがにこれは想定外。理論を超えてる……!」
「マリーネ、俺、気づいたんだ。スライムは――鍋なんだよ」
「あなた何言ってるの!?」
* * *
そこへ現れたのが、一人の美青年。
黒髪に赤い目、真紅のローブを身にまとい、まるで吸血鬼のような出で立ち。
「そのスライム、いただくよ」
「誰だお前!?」
「私はリオネル・ヴァントゥール。
異世界料理ギルド《黒鉄の匙》の第一席料理人さ」
どや顔だった。
めっちゃどや顔だった。
「そのスライムを“真のカレー”に仕上げる資格があるのは、この俺だけだ」
「いや俺今もうほぼ食ってたから!第一発見者俺だから!」
「だが調理術は私の方が上だ」
「対決か!?」
「望むところだ」
◆カレー・スライム料理対決、開始!
・悠真の料理:
《沼仕込み!ドロドロスライムのまかないカレー丼》
→スライム本体をそのまま白米にぶっかけるワイルドスタイル!だが美味い!やばい!
・リオネルの料理:
《七種スパイスで仕上げた幻の“黄金スライム・マサラ”》
→内部のスパイス構造を瞬間分解。スライムをルーに再構築するという神業。
勝負は――引き分け。
理由:マリーネがどっちも3杯ずつ食べたから。
「どっちも最高……次はナンで食べたい……」
そして、リオネルは言った。
「貴様、なかなかやるな。だが、次は負けんぞ」
「え、また会うの!?」
「我ら“スライム食派”の未来は、競争の中にこそある」
(なんか変なの増えた……)
俺のグルメ旅は、また一歩進んだ。
目指すは、世界の果ての“神話級スライム”……!