第一話「ぷるぷるの衝撃、スライム刺身」 【後編:泡と爆発と知性の味】
泡スライム――その名は近隣の村でまことしやかに噂されていた。
「あれに近づいたら、泡まみれになって家が爆発した」
「泡を吸った牛が、空飛んだぞ」
「子供が間違って飲んだら、しゃっくり止まらなくなったらしい」
それは、ただの泡ではない。
“炭酸”を自在に発生させる、異世界発の発泡生物なのだ。
(つまり……炭酸スライム。炭スラだ……!)
俺は村人の制止を振り切って、泡スライムが出るという炭酸の泉に向かった。
◇ ◇ ◇
「……いた!」
泉のほとり、白く光る小さな泡の塊。
シュワシュワと音を立て、ぷるぷる震えている。
(思ってたより……可愛い……?)
俺はしゃがみ込み、そっと手を伸ばした。
その瞬間――
ボンッッ!!!
泡スライムが突然膨張、次の瞬間――大爆発。
爆風と泡が炸裂し、俺の全身が真っ白になった。
「うおおお!? しゅわしゅわするううううッッ!!!」
「馬鹿ね!あんな至近距離で触れたら当然よ!」
――聞き慣れない、凛とした声が響いた。
泡にまみれた視界の向こうから、銀髪の少女が歩いてくる。
「……君は?」
「マリーネ・フォン・アルグレイア。スライム研究家よ」
凛とした表情。白衣。メモ帳。完全に理系。
でも、なぜかその目は――スライムを見て、キラキラと輝いていた。
「この泡スライム、希少個体よ。変異種の発泡圧力は通常の1.7倍。内部炭酸濃度は――はあ……たまらない……」
(なんかこの人、こっちの意味でもヤバい!)
「でも、美味そうじゃない?」と俺が言うと、彼女はピタッと止まった。
「……え?」
「これ、調理できたら最高の炭酸ジュレになるんじゃ……って」
「……まさか……君、スライムを“食べてる”の?」
その瞬間、彼女の瞳がギラリと光った。
「すばらしいッ!!!」
マリーネは俺の手を握り、興奮気味に言った。
「実は私、長年研究していたの。スライムには、まだ未知の“食的価値”があるって!」
「さっきの爆発、二次発酵を活かせば天然の炭酸ガス。ジュレ状に冷やせば世界初の“生炭酸ゼリー”が完成するわ!」
(なにこの人……こっち側だ……!)
意気投合した俺たちは、その場で泡スライムの調理に取りかかった。
◆ ◆ ◆
調理結果:《泡スライムの冷製ジュレ・レモン風味》
炭酸の弾ける音。レモンの香り。口に入れた瞬間、ぷるぷるのゼリーが“しゅわっ”と溶ける。
食感はまるでシャンパン。なのに、自然の甘みと清涼感が絶妙に絡み合う。
「これ……やばい……」
「発表しなきゃ、スライムの食文化を!」
「でもまず、食う!」
こうして、俺とマリーネの旅が始まった。
目指すは――世界に眠る、未知なるスライムたち。
食べ尽くせ、ぷるぷるの大地を。