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中間テスト結果発表〈ルート共通イベント〉④


 いったい、千照を発熱させるほど苦しめている〝昨日の出来事〟とは何なのか。

 部屋の端に積まれている丸椅子を一つ持ってきて千照の横に座り、本格的に話を聞く姿勢を見せれば、コップの水をこくこくと飲んだ彼女は、細く長い息を吐いた後、ゆっくりと口を開く。


「……昨日、ね。中間テストの、結果発表が、あったでしょ?」

「はい」

「白雪ちゃんは掲示されてるのを見に行ったみたいだけど、私は放課後に、配信されたのを見たの。それが、ね……知ってるのと、違くて」

「違う?」


 そもそも、つい先ごろ行われた中間テストの結果を〝知っている〟のも変だが……これは、もしや。


「うん。あのテスト結果発表って、『姫イケ』のイベントの一つなんだよね。ゲーム内ではもちろん、テストという名の色んなミニゲームをプレイして、その結果が順位に反映されるんだけど。あんまり点が低いとステータス不足でバッドエンド一直線だから、プレイヤーはみんな必死だったよ」

「それは最早、乙女ゲームという名の別のゲームでは?」

「うん。有名レビューにもあったよ。『乙女ゲーのつもりが、いつの間にかパズルゲーしてた』ってのが」

「でしょうね……」


 世の中、パズルゲームやリズムゲームとストーリー進行がリンクしている乙女ゲームなど腐るほどあるけれど(特にスマホアプリ系だとそっち方面の人気が顕著だ)、それならそれで告知しておくべきだろう。なのに『姫イケ』とやらの場合、それらのゲームはあくまでも〝ミニ〟扱い。プレイヤーキャラクターのステータスに重大な影響を及ぼし、場合によってはストーリー続行すら不可能になってしまうほどの〝鍵〟は、客観的に見て〝ミニゲーム〟ではないと思う。


「白雪ちゃんの順位は、プレイヤーがミニゲームやり込んで、最高得点叩き出したくらいで到達できる、現時点でのベストだから、本当にありがとうでしかないんだけど」

「そ、そうですか」

「そうなの! さすが白雪ちゃん! って泣きそうになったもん」


 確かに国英社はそれなりに満足いく結果だったが、あれだけ勉強した数学と理科が足を引っ張ってあの順位だから、〝ベスト〟と言われると違和感しかない。昨日、寮で顔を合わせた翠斗にも、「期末までにもうちょい頑張ろっか」と励ましのようなダメ出しを受けたくらいだ。讃えられても反応に困る。

 そんな白雪の微妙な心情には気付かなかったようで、千照は空になったコップをぎゅっと握った。


「……そう。白雪ちゃんは良かったんだ。問題は、他の人たちで」

「他の人、ですか?」

「うん。――攻略キャラのテスト順位が、変だったの」

「なるほど……?」


 何となく、話が見えてきたような、そうでもないような。


「生徒会長が全教科満点で学年トップなのは『姫イケ』でも一緒だし、紫貴が三十位圏内なのもゲーム通り、なんだけど。他のキャラが、変で」

「あー……」

「橙雅って、この頃はまだバスケか家業を継ぐかで迷ってて、それが成績にも反映されてる感じで、そんなに順位は高くないの。真ん中よりちょっと上くらいかな?」

「実際の沙門先輩は、布袋先輩ほどではありませんが、それでも成績は五十位圏内にはいらっしゃいましたね」


 宝来学園高等部は、各学年二百人に少し足りないくらいの在籍数だから、五十位圏内にいれば、概ね上位二十五パーセントには入っている計算だ。『原作』では真ん中くらいだったということは、倍近く順位を上げているわけか。


「晴緋は、『勉強なんてできなくても平気だ! 俺はサッカーで生きていく!』って豪語するような人だから、当初の五教科の成績はぜーんぶ赤点で。そこから主人公と関わっていく中で、『サッカーだけできてもダメなんだ』って気付いて、ちょっとずつ成績も上がっていく……んだけど」

「大天先輩がサッカー一筋なのは変わりありませんよ? ですけれど、寮では沙門先輩から『サッカーで生きていけるのなんて、せいぜい三十代までだろ。その後どうする気だよ?』と諭されて、苦手ながらもお勉強していらっしゃいました。そのおかげか、成績も百十位圏内と、健闘しておいででしたね」

「橙雅が? けどなんで、橙雅と晴緋は、そんなに仲が良いの? ゲームだとあの二人、確かに幼い頃からの知り合いではあるけど、あくまで顔見知り程度の距離感のはずなのに」

「えぇと……どうなんでしょうね?」


〝アフィ〟の記憶が戻る前の晴緋は、「バスケなんかをやってるヤツに興味なかった」らしいから、『姫イケ』の二人が顔見知りでしかなかったのは分かる。

 ……ただ、うん。


(〝今世〟の晴緋は、出会った瞬間にアフィの記憶が蘇ってるものね……。〝前世〟の二人はそれこそ、ツーカーレベルで通じ合ってたし)


 アフィが〝長兄〟として皆をまとめ、ビクトが彼をこまめにフォローする。そんな〝前世〟と地続きの白雪にとってはむしろ、勉強の苦手な晴緋を橙雅が何かと世話している姿は違和感のないものだったけれど、当然ながら千照にとっては違和感しかないはずだ。


「他にも、翠斗は理数以外の教科壊滅的なはずなのに、普通に順位良かったし。聖蒼は宝来に入ったばかりで勉強についていけてなくて、最初の中間テストは点数悪いはずなのに、七十位圏内だったし。黄清も成績は可もなく不可もなくだったのに、一年の三十位圏内にいるし!」

「いましたね……。テスト期間中は、特別寮の一年生同士で得意な科目を教え合ったりしていましたので、その成果かなとは思いますが」

「聖蒼くんと黄清くんは、まだ分かるよ? 人嫌いで引き篭もりだったはずの翠斗くんが、なんでたった二ヶ月足らずで、ここまで特別寮の人たちに心開いてるの!?」

「さ、さぁ……?」


 翠斗に関しては、高等部へ入学し、特別寮入りするその瞬間までは、ほとんど〝原作ママ〟だったらしい。情報収集が得意な千照が調べても、『姫イケ』通りの過去が浮かんでくるだけだろう。

 なのに、実際学園にいる彼は、確かに手の離せない実験で授業を欠席することは多々あれど、実験中でないときは普通に登校し、クラスメイトとも当たり障りなく交流している。そこに〝人嫌いな引き篭もり〟の面影はなく、千照が混乱するのも無理はない、のだけれど。


(〝知恵〟の幸運を司る〝小人〟だったヴィルを、人嫌いな引き篭もりキャラに当て嵌めたのが、そもそものキャストミスとしか言いようがなくて……)


〝知恵〟とは、人が生きる中で自然と生まれ、世代を超えて繋がれ、確立されていくものだ。その幸運を司っているヴィルは、もともと人間にとても好意的だった。

 そんな〝前世〟が蘇った以上、いくら翠斗が家族や周囲と折り合い悪くてうっすら厭世的だったとしても、いつまでも人間全体を嫌い続けられるわけもない。今の翠斗は「たまたま関わった人間にハズレが多かっただけ」だとスッパリ割り切り、積極的に人の輪へ入ろうとしている。


「――何より、中間テストをサボって学外女子とデートして、そのせいで全教科ゼロ点だったはずの深藍が、フツーにテスト受けて、フツーにそこそこ良い点取ってる!」

「あの人のことは、もう考えるの止しましょう? もとから『姫イケ』と大幅にキャラ乖離してた人なんでしょう? 考えても無駄ですって」


(割と本気で深藍にエロいお兄さん枠は無理あるから! 『姫イケ』ではこんなキャラだったんだって、って雑談がてら話したときの、みんなの反応がもう……!)


「俺らの転生先、単に色のマッチングだけで選ばれてねぇ? もうちょいキャラ考えろよ」と吐き捨てたのが紫貴、「〝技能〟のヨーテが天才音楽家に転生なんてハマり過ぎでしょ、って今の今まで思ってた……」と呆然としたのが聖蒼、「仮に弁財家が深藍の才能を買い叩いたとしても、ヨーテは一切気にしないでしょ。楽器さえ弾けたらオッケーな緩さで生きてんだから」と呆れ果てたのが黄清だ。晴緋は「ヨーテが! ヨーテがエロいお兄さん枠……っ」と腹を抱えて笑い転げ、橙雅は「……そういう風にキャラを考えてくのか。ゲーム制作も楽じゃないんだな」と現実逃避し、「俺も大概だけど、深藍はもっと〝ない〟な」と虚無顔で翠斗が締めていた。ちなみに当の本人は、「エロいおにーさん枠~? 女の子と遊べば良いの~? んー、でもそんな時間あったらピアノ弾いてたいかなぁ?」と安定の通常運転だったので、〝弁財深藍〟が今後、『姫イケ』のシナリオをなぞる可能性はゼロである。


「他の方にしても、同じことですよ。四月の当初、千照さんがお調べになった時点で、そこそこ〝ゲーム〟からズレていたのでしょう? まず、『主人公』のわたくしからして、『姫イケ』通りではありませんし」

「白雪ちゃんは、ね。『悪役令嬢』が全然違うムーブしてるから、まだ分かるの。でも、特別寮の七人が『姫イケ』とズレた原因が分からなくて……」

「えぇと……皆様にも事情があるのだと思います。タイミングがあれば、またそれとなく聞いておきますから」


 正確には、「〝前世〟について千照に話しても良いか」という確認だけれど。知恵熱を出すほど千照を悩ませていることが、そろそろ申し訳なくなってきた。


「白雪ちゃん……! ありがとう!」

「とんでもない。千照さんのためですもの、なんてことありません。――では、わたくし、教室へ戻りますね」


 ようやく明るい表情になった友人に安堵し、白雪は保健室を後にした。





「……頼むよ、白雪ちゃん。〝大団円ルート〟成立のためには、どうしても、『姫イケ』のシナリオを、精密に、なぞっていかないとだから」


 一人になった保健室で、千照がそう呟いているとは知らずに。


次回より新章始まります。

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