表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/79

中間テスト結果発表〈ルート共通イベント〉③

今回、白雪視点です。


  ■ ■ ■ ■ ■



 個人情報保護法もへったくれもない、宝来学園のテスト結果一斉公表制度。誰か一人でも訴えれば無くなりそうだと思いつつ、長年政財界のトップたちが受けてきた洗礼を自分たちの代で亡くそうとは誰も思わなかったのだろうという事情も容易に推測できるため、白雪も敢えて言及はせず、粛々とその日を迎えた。一応時勢に則ってか、昔は次のテストまで貼りっぱなしだったという掲示は当日のみで撤去され、後は個人支給されたタブレット端末で確認できるのみとなっている。


(せっかく貼り出されているなら現地で見てみようと気まぐれに足が向いただけだったけれど、行って良かったわ。そうでもしなきゃ、つむぎさんと会えなかったもの)


 特別寮での暮らしに不満はないけれど、残念なことに、つむぎとすれ違える確率は大きく下がってしまった。女子寮で寝起きしていた頃は、おはようからおやすみまでほとんどつむぎと同じ屋根の下にいると思えばそれだけで満たされたし、ちらりと姿を見かけようものなら天まで昇る心地に浸れたものだ。運が良ければそれこそ、一緒に入浴なんていう超優良イベントにすら恵まれた。

 それに引き換え今は、同じ敷地内にこそいるけれど、生活を共にできているわけではない。すれ違える可能性も、校舎内のみに限定された。学年が違えば教室のある階も異なるため、つむぎを見かけるためには意図して他学年との接触が多いポイント(食堂やカフェ、購買など)へ出向かねばならないと来れば、〝ただ見かけるだけ〟で満足できなくなるのは自明の理であった。


(特別寮に移ってから、わたくしがつむぎさんへ積極的に話し掛けるようになった、って気付かれてないと良いけれど。自覚はしていても、つむぎさんに知られてしまったら、やっぱり恥ずかしいわ)


 前世も今世も良家の子女として生まれ、そのように育った身として一応、「女の身で好意をあからさまに見せ、相手へアピールするような言動ははしたない」といった価値観は持ち合わせている。特別寮へ移ってから、学内でつむぎを見かけるたび、少々の不自然さには目を瞑って声をかけ、挨拶や雑談をするようになった白雪は、客観的に見れば〝好きな人へあからさまな好きアピールをしている女〟に他ならないだろう。別に好きアピールをしているわけではなく、一つ屋根の下で暮らしていたときに比べてつむぎ成分が不足しているがゆえに、足りない分を補うべく、見て満足からわずかな接触の機会も逃さない方向へチェンジしただけだが。


(その雑談だって、あんまりつむぎさんが興味を引けるようなネタが思いつかなくて、ついつい特別寮のみんなのことばかりになっちゃう……)


 彼らの〝前世〟はつむぎの〝前世〟と、とても密接かつ親しい間柄だった。つむぎに〝前世〟の記憶はないが、特別寮の彼らは生まれ変わった〝今世〟も、つむぎを大切に思っている。自分たちの近況がつむぎに知られたところで困ることは何もなく、むしろもっと知ってほしい気持ちでいっぱいなことは察せられたので、遠慮なくネタにさせてもらっているけれど。肝心の、雑談相手であるつむぎがどう思っているのかは気になるところだ。


(今度それとなく、知らない人の話ばかりで退屈ではないか、尋ねてみないと……)


 そんなことをつらつら考えつつ、つむぎはそろそろ通い慣れた一年A組の教室へと、足を踏み入れた。特別寮の皆は部活の朝練だったり諸々の用事があるので、登下校は基本、白雪一人なのだ。前世『小人』な彼らは白雪の保護者のようなものであったけれど、彼らは特に過保護ではなかったため、今世の白雪が単独行動をすることも、特に危険視していない。特別寮へ来た経緯が経緯なので、「身の回りの違和感に注意しろ」とは言われているが。

 教室に入った白雪は、クラスメイトたちと朝の挨拶を交わしながら、教室中央近くにある自身の机までのんびり歩き、机に鞄を置いて一息つく。

 そのまま椅子を引き、座ろうとしたところで。


「あれ、白雪ちゃん……?」

「おはようございます、千照さん――って、どうされました!?」


 どうやら、今の今まで机に突っ伏して眠っていたらしい千照が頭を上げ、白雪をぼうっと見つめてくる。その顔色は素人目に見ても分かるほど青く、はっきり体調不良者だ。


「千照さん、どこかお具合でも悪いのですか?」

「そ、そういうわけじゃないんだけどー……」

「ですが、どう見てもこれから授業を受けられる状態には見えません。保健室へ行かれた方が良いのでは……」

「そう、かなぁ?」

「はい。良ければ付き添いますので、一緒に参りましょう?」


 白雪の申し出に周囲の生徒たちも頷き、「朝からしんどそうだなって思ってた」「先生には言っておくから、三界さんはゆっくり休んで」と口々に言い添えてくれる。どうやら白雪が登校する前から、クラスメイトたちは千照の様子を気にしてくれたようだ。


「そこまで心配かけてたんだー。お言葉に甘えて、保健室行ってくるよ。……白雪ちゃん、一緒に来てくれる?」

「もちろんですとも」


 二つ返事で頷き、フラフラしながら立ち上がった千照を支え、白雪は入ったばかりの教室を出る。千照はまっすぐ歩けてこそいたけれど、足取りは重く、視線も虚だ。さすがに尋常ではない。


「失礼します。先生は……いらっしゃいませんね」

「宝来学園、保健の先生サボりがちって設定あるんだよ……」

「なんでまた」

「保健室が、キャラとの恋愛イベントスポットの一つ、だからかな? 先生が真面目に勤務してたら、キャラと二人っきりになれないし……」

「少女漫画のご都合主義が実装されると、不便なことこの上ありませんね……」


 ため息をつきつつ千照をベッドへ誘導し、ひとまず体温計を渡す。後から文句を言われないよう、利用者名簿にもきちんと名前を書いた。ちなみに名簿はスッカスカで、本当に不真面目な養護教諭であることがひしひしと伝わる仕様だ。天下の宝来学園にこんな教師がいては評判に差し障るだろうに見過ごされているとは……これもいわゆる〝原作補正〟か。

 厳しい目で保健室の内情について考えている間に、ぴぴっと小さな電子音が鳴った。千照の熱が測れたらしい。


「38度2分ですか。普通に病人ですね」

「ホントに熱、あったんだ……昨日、ほぼ寝れてないから、単なる寝不足だと思ってた」

「はい?」


 今、聞き捨てならない言葉を聞いたような。


「寝不足、ですか? 一人部屋だからと、まさか千照さんがそのような不摂生を……」

「昨日だけだよ! 昨日は、えっと、ちょっとショックなことがあったというか」

「ショックなこと?」

「そう。そのことを調べてたら、夜通しかかっちゃって……明け方ちょこっと寝落ちしたけど、ほぼ寝てないんだ。しょうがないから授業中に寝ようと思って」

「しょうがない、の使い方が変ですが……お話を聞く限り、知恵熱のようなものでしょうか」


 千照の顔色は悪く、熱で目が潤んではいるけれど、咳や鼻詰まりといった風邪の諸症状は見られない。素人判断は禁物なので、速やかに帰寮し寮医の診察を受けるべき(上流階級の令息令嬢が共同生活を送る高等部学生寮には当然、通いの医者と看護師が数名常駐している)なのは変わりないが、重篤な病である可能性はグッと下がった。


「真面目な千照さんがそのように常ではない行動を取られるほど、その件は衝撃的だったのですか?」


 知恵熱ならば、彼女を悩ませている事象について整理できれば、回復も早いはず。そう思って、備え付けのウォーターサーバーから汲んだ水を渡しつつ問えば、大人しくベッドに入った千照は、コップを片手にこくりと頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
でもって「悪意」の目的が「ヴィクトリア=つむぎ」をこの世界の悪役として処罰するまたは葬り去る事だとすると、 この子の存在って悪意側の介入だったりする可能性が高いんだよなぁ…… 恐らく本人自身には悪意無…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ