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4月20日〈回想・ルート共通イベント中〉②


 図書館を出たつむぎは、そのままの足で、学園内にある警備室へ向かう。


「こんにちは、皆様。今、少しお時間よろしいでしょうか?」

「ん? ――おぉ、飯母田さんじゃないですか! もちろん良いですとも、お入りください」

「ありがとうございます。こちら、少ないですが皆様でどうぞ」


 生徒の自立心を養うため、極力大人の手が入っていない学生寮と異なり、学園校舎には常に大人の目と手がある。教師陣が常駐しているのはもちろんのこと、通常の部活動終了時刻までは、こうして警備室にプロの警備員が詰めてくれているのだ。

 そして。つむぎはボランティアとして風紀委員会や生徒会を手伝ううち、何かと警備室担当の警備員たちと接する機会に恵まれ、こうして顔を覚えてもらうことに成功したわけである。学園の安全と平和を守る警備員さんと仲良くしていて損はなかろうと、会うたびお菓子を渡していた甲斐があった。

 今日は急だったので上等なものはなかったが、いつも配り歩き用に持ち歩いている飴菓子がまだ結構な数残っていたので、ひとまずそれを渡しておく。ホクホク顔で受け取った警備員は、「それで、今日はどういったご用件でしょう?」と尋ねてきた。


「それがですね、少々厄介な話を小耳に挟みまして。急で申し訳ないのですが、女子寮の、昨晩の消灯前、22時30分前からの防犯カメラ映像を、見せて頂きたいのです」

「はぁ、防カメですか。構いませんが、また随分急ですね。何かありました?」

「えぇ。どうやら女子寮で、可愛がっている後輩が、要らぬ濡れ衣を着せられているようで……なんとかして無実を証明したいのです」

「それは大変ですね。承知しました」


 警備室は常に警備員たちが常駐しているため、一般生徒が出入りすることはほとんどない。たまに生徒会役員や風紀委員が、防犯カメラの映像を確認するため訪れる程度だ。

 だが、実は学園則に、生徒の警備室出入りを禁じた項目はない。役目上、警備室と絡むのがほぼその二つというだけで、実際は誰でも利用できる。

 とはいえ、見知らぬ生徒相手だと警備員も警戒して、「お前は誰で、どういった目的でカメラ映像を見たいのか」と、そこそこ詳しく聞いてから、見せるかどうか決めるらしい。その点つむぎはお菓子で顔を繋いでいたおかげか、軽く事情を説明するだけで、すんなり関門を突破することができた。やはり、持つべきものはコネである。


「昨晩の女子寮、22時半前からの映像ですね。――出ますよ」

「お願いします」


 正面の大きなモニターが、何十個もあるカメラの映像を一斉に再生していく。警備員に教えられ、件の大浴場前廊下の監視カメラ映像を確認すると、確かに22時31分、歩いて部屋へ戻る白雪の姿が映っていた。それから早回しで確認してみると――。


「はい、電気が消えました。ここからはほとんど何も見えませんよ」

「……そうみたいですね」


 白雪が通って以降、確かに大浴場前の廊下は、無人のまま消灯時間を迎えていた。――昨晩の消灯間際、確かにつむぎは、あの廊下を小走りで通り抜けたはずなのに。


(だとすると、やはり、これは――)


 せめて、証拠が欲しい。つむぎの記憶と〝現実〟が食い違ってはいないという、確かな証拠が。

 少し考えて、つむぎは画面の時間表記を指差す。


「すみません。消灯5分前からもう一度、再生して頂けますか?」

「え? はい」


 警備員たちは戸惑いつつも、つむぎの言うことだからか深く突っ込んでくることはなく、もう一度映像を流してくれる。消灯5分前から流れ出した昨晩の女子寮風景、その中で〝アタリ〟をつけていたいくつかのマスを、つむぎは注意深く観察して――。


「ここ! 止めて!」

「はっ、はい!!」


 消灯わずか5秒前、3階の、生徒それぞれの部屋へ繋がる廊下の奥に設置された、とある一つの防犯カメラの映像。

 そこに映っていたのは。


「これ……飯母田さん、ですか?」

「はい、私です」

「随分急いでますね?」

「昨晩は、大浴場から上がるのが、消灯ギリギリになってしまって。早く部屋へ戻らないとと、焦っていたんです」

「――え? でも、さっきの大浴場前の廊下の映像には、こんな風に急いでいる飯母田さんは映ってなかったですよ?」


 警備員たちの中で一番若い男が、思わずという風に声を上げた。彼の言葉に、他の警備員たちも驚いて、つむぎに指示されるまでもなく映像を戻し、何人かで分かれて消灯間際の映像を確認し出す。


「これは……」

「飯母田さんが映っているカメラと、映っていないカメラがありますね」

「おかしくないすか、これ。ここのカメラにこの角度で飯母田さんが映ってるなら、こっちにもっとでっかく映ってないと、整合性が取れないです」

「……それは、つまり」

「――おそらく、ですが。映像をいじった〝実行犯〟は、女子寮の内部構造も、カメラがどんな角度で取り付けられているかも知らない、外部の人間なんでしょう。そして、この〝犯行〟を指示した人物もまた、防犯カメラの画角に詳しくなかった。だから、消灯前に廊下を走っていた私を〝消す〟のに、私の部屋までの最短ルートにある、主だった防犯カメラだけを伝えたんです」


 防犯カメラを取り付ける際、なるべく死角を潰せるよう計らうのは、安全対策における基本中の基本である。そうやって設置場所を考えていけば、複数のカメラが同時に別の画角で見守る〝ポイント〟が発生することもまた、自明のこと。去年、生徒会と風紀委員会をよく手伝っていたつむぎは、防犯カメラを調べて異常がないか確認する作業を任されることも多く、そのことをよく知っていた。

 つむぎの言葉に、警備員たちはみるみる表情を強張らせていく。


「……おい、本社に連絡だ。宝来高等部学生寮の防犯システムが攻撃を受けたと、防犯カメラ映像が何者かによって書き換えられた形跡があると、すぐ報告しろ」

「はっ、はい!」

「申し訳ありません、飯母田様。これは完全な、弊社の過失です」

「……御社は悪くありませんよ。悪いのは、こんなことを計画し、実行した連中です」


 最も年嵩の、おそらくはリーダー的ポジションなのだろう警備員に頭を下げられたが、つむぎは謝罪を受ける立場にない。首を振って、立ち上がる。


「私もこの件を、風紀委員会へ伝えてきます。学園の防犯システムが破られたなんて、生徒の安全に直結する一大事を、このまま放置はできません」

「……はい」


 重々しく頷いた警備員に頭を下げられながら、つむぎは再び、廊下を歩き出す。

 歩きつつ、今度はスマホを取り出した。――仕事用ではなく、ごく親しい人としか繋がっていない、つむぎ個人のスマートフォンを。


『――どうした?』

「要件だけ伝える。――昨晩の防犯カメラ映像が何者かによって改竄され、本当の〝最終利用者〟だった私が映像データから消された」

『何?』

「よって今、昨晩の〝最終利用者〟は白雪さんということになっている。そして、先ほど、女子寮大浴場の浴槽蛇口が全開にされ、脱衣所まで水が流れ込む、床上浸水被害が発見されたらしい」

『……そう来たか』

「発見者の中にたまたま女子の風紀委員がいたそうで、すぐさま防犯カメラ映像から〝最終利用者〟が割り出されて、女子談話室で取り調べだそうだ」

『何だそれ。こっちに報告来てねぇぞ』

「対応に当たっている者が、報告の必要はないと判断したんだろう。彼女たちは防犯カメラ映像が改竄されているなんて知らないから、やむを得ない話ではあるがな」

『だとしても、談話室なんて開けた場所で取り調べる必要ねぇだろが。風紀の評判ガタ落ちさせるつもりか?』

「……聞いた話、中心となっている人物が、どこまでその現実を理解してるかは怪しいな」


 数コールの後、電話を取った亘矢は、声を顰めてこそいるが、口調はいつもの彼のままだ。風紀委員会室とは別の場所にいるか、風紀委員会室だとしても周囲に人気がないかのどちらかなのだろう。


「――今、どこにいる?」

『風紀室だ。今はさほど忙しくないが、〝怪メール〟の件があったから、一応詰めてた』

「なら、適当な理由をつけて抜けても不自然じゃないな?」

『あぁ。どうとでも動けるように、準備は整えてある』

「分かった。――校内の見回りとでも理由をつけて、今すぐ警備室へ向かってくれ。途中で私と会って今の報告を受けたことにして、慌てて駆けつけてきた、って筋書きだ。〝風紀委員会〟が防犯カメラの件を知れば、すぐにでも動き出せるだろ」

『了解。じゃあお前は、俺に防犯カメラの件を伝えて、可能な限りでクラッキングの痕跡がないか調べておく、と返答されたとでも言っとけ。――たぶん、姫川白雪の無実証明が最優先だろうから、俺からの伝言はその後で良い。それまでに、最低限の調査は済ませとく』

「悪いな。頼んだ」


 ――そう。つむぎも亘矢も、確認し合うまでもなく、理解していた。

 これこそ、あの〝怪メール〟にあった、〝姫川白雪を宝来学園学生寮から退寮させるべく起こる、女子寮の大浴場管理の不手際案件〟だと。本来の〝最終確認者〟であるつむぎをわざわざ防犯カメラから消してまで実行する辺り、〝犯人〟の気合いは相当なものと見える。

 だとしたら……女子寮談話室で、今まさに行われているという〝取り調べ〟が、ただの取り調べで終わる可能性は、極めて低い。


「私はこのまま、女子寮へ向かう。後のことは任せたぞ」

『あぁ。……気をつけろよ』


 亘矢との電話を終わらせ、つむぎはまっすぐ、女子寮へ向かう。……どうしてか、白雪が危機に陥っている現実に、自分でも戸惑うほどの焦りを覚えながら。


(白雪さんは懐いてくれる可愛い後輩ではあるけれど、そこまで特別な間柄とも言えないはずだが。何故か最初から、彼女のことになると、私は我を忘れてしまうな……)


 商人たるもの、あまり感情に振り回されてはいけない。余計な雑念に囚われ過ぎてしまっては、そこにある商機を見逃しかねないのだから。

 そう己を戒めつつ、つむぎは女子寮談話室へと駆けて――、



 

「……話を聞いて来てみれば、随分な展開になっているな。いつから宝来学園高等部の女子寮は、一部の感情論だけで一人の生徒を追い詰めるハラスメント集団に堕ちた?」


 集団の圧力で、今にも白雪へ退寮宣告を出しそうな〝取り調べ〟の様相に怒髪天を突き、数分前の戒めをサクッと破る羽目になったのだった。


次回、物語の時間軸は現在へ戻ります。

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