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入学式〈オープニング〉⑤

引き続き、千照視点です。


  * * * * *



 ……うん。

 そう、決意はした、の、だが。


(ごく普通の女の子として入学するはずの白雪ちゃんは、何故か既に上流階級のお嬢様として完成しちゃってるし! 義理の姉として登場するはずの悪役令嬢は、キャラデザはまんまでも苗字が違うし! 何より、どうしてか、白雪ちゃんが悪役令嬢ラブだし!!)


 本来の、『姫イケ』におけるオープニングは、入学式の朝、桜舞い散る正門を潜ったヒロインを、『宝来学園の王子』と謳われる生徒会長が出迎えてくれるという、〝あるある〟シチュエーションだ。 その『生徒会長』はメイン攻略キャラではなく、メイン七人のルートをクリアした後に解放される隠し攻略キャラだが、乙女ゲームにおいてオープニングで隠しキャラを〝匂わせる〟ことはままあるため、別に不自然というわけでもない。


(生徒会長がヒロインを出迎える理由も、ちゃんとしてたし)


「やっと会えたね、白雪姫。僕の可愛い〝妹〟。ようこそ、宝来学園へ――」というのが、オープニングで『生徒会長』が最初に話す台詞だ。THE・王子な彼の外見と、当時〝王子キャラといえば〟で有名だった声優が中の人だったこともあり、このオープニングの評価は非常に高かった。

〝妹〟という単語が示す通り、このゲームにおいて、隠しキャラである『生徒会長』とヒロインの義姉『悪役令嬢』は、婚約関係にある。上流階級においては珍しくもない、政略的な婚約というやつだ。

『悪役令嬢』の義妹であるヒロインは、『生徒会長』にとっても未来の義妹に当たる。そのため彼はわざわざ、ヒロインを出迎えに正門まで来てくれた、というのがオープニングのシナリオで。


(そこに悪役令嬢が優しげなお姉さんとして現れたり、道の真ん中で話す彼らを注意しに冷徹風紀委員長が出てきたりして……〝メイン攻略キャラ不在のオープニング〟って、揶揄されてたけど、私は好きだったんだよなぁ)


 好きだったからこそ、こっそり桜の陰で見守る体勢に入っていたわけだが(断じてストーカーではない、大事なことなので二回言っておく)。待てど暮らせど生徒会長はおろかヒロインの影かたちすらないし、悪役令嬢らしき女生徒は受付業務に励んでいるしで、何かがおかしいと思い始めて。

 ――やっと現れたヒロインが、目の合った悪役令嬢目掛けて一目散に突進していったことで、完全に情緒を破壊されたわけだ。


(一応、白雪ちゃんと悪役令嬢と風紀委員長の三人は揃ってたけど! 肝心の生徒会長は不在だったし、雰囲気もゲームのオープニングとは似ても似つかないというか、ヒロインの襟首締め上げる乙ゲーキャラってなに!?)


 千照から見てもヒロインの暴走特急ぶりはなかなかで、一方的に抱きつかれた悪役令嬢はかなり分かりやすく困っていたから、あれくらい乱暴にきゅっとされても文句は言えないのかもしれないが。冷徹風紀委員長、なんだかゲーム以上の圧があったような。


(悪役令嬢と風紀委員長の関係も謎だったしなぁ)


 原作ゲームでは、非常に複雑な関係性の二人だ。表面上はさほど関わりのない他人同士を装いつつ、実は……という、これまたお約束の。

 しかし、桜並木道の真ん中で、ヒロインを間に話す二人は、関わりのない他人という言葉が当て嵌まらない程度には親しげな雰囲気であった。


 そして、何より。


(白雪ちゃんの登校時間がかなり遅めだったから、ヒロインに興味を持つはずの聖蒼くんとニアミスして、会話イベントが発生しないし!)


 オープニング後、最初の場面である『一年A組』では、周囲から浮きまくっている〝生徒会長のお気に入り〟のヒロインに興味を抱いた攻略キャラの一人、同じクラスの福禄(ふくろく)聖蒼(せいあ)から話しかけられるという固定イベントがある。

 名門『姫川家』に生まれながらも、冷遇されていたため上流階級向けの教育環境を与えられず、地域の公立校で平凡に育ったヒロインと、宝来学園では珍しい、一般家庭出身の特待生である聖蒼はここで意気投合し、仲良くなる――という流れなのだが。


(白雪ちゃん、目立つ容姿をしためっちゃお嬢様だから、聖蒼くん含めて、クラスの注目を浴びてはいるけど! お姫様仕草が完璧すぎて、話しかける人皆無だよ~)


 高校まで上流階級と縁のなかった聖蒼にしてみれば、ここにいる白雪はまさに〝雲の上のお姫様〟みたいなものだろう。先ほどからチラチラ、白雪の方を見ているのは分かる。

 が、しかし。


(掃き溜めの中に鶴がいると、人間、ついつい遠巻きにしちゃうよね~。分かる分かる、めっちゃ分かるけど……話しかけてくれないと、イベント不成立になっちゃう!)


 ここで聖蒼とツテを作っておかねば、この先のとある強制イベントで、早くも詰みかねないのだ。画面上で展開されるゲームなら、ゲームオーバーになってもリロードすれば済むけれど、ここは現実。よくあるゲーム世界転生系ファンタジーのように、転生者にだけ見える半透明のプレイ画面が現れる、なんてご都合主義も見当たらない現状、ゲームオーバーだけは何とかして阻止したい。


(とはいえ、ただのサポキャラに過ぎない私ができることなんて、たかが知れてるしなぁ)


 そもそも、どうしてこの現実は、千照の知る『姫イケ』とこれほどズレているのか。先ほど話した感じでは、白雪にゲーム知識はなさそうだったし……と、なると。


(お約束なのは、『姫イケ』を知ってる誰かが『悪役令嬢』に転生した、悪役令嬢転生……?)


 千照という前例がある以上、決してあり得ない話ではない――。




 かたん。


 椅子を引く軽い音がして、千照の意識は現実へと引き戻された。見ると、白雪が立ち上がってスカートの裾を整えている。


「えっと……姫川さん、どうしたの?」

「あ、申し訳ありません。式の前に、お手洗いを済ませておこうと思いまして」

「あー、そうだね。大事だね」

「はい。行ってまいります」

「うん。いってらっしゃーい」


 ――そうだ。入学式前の固定イベントは、もう一つあった。


(式の前、広い校舎で迷子になったヒロインが、もう一人の隠しキャラと一対一で会話する、重要イベント。……こっちは不発しませんように)


 教室を出ていく白雪へ手を振って、千照はその背に、そっとエールを送るのだった。


次回、また別キャラ視点に変わります。

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