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4月17日〈回想・ルート共通イベント前〉③


 姫川の幹部程度の家柄であれば、宝来学園へ通うには若干格が足りないため、亘矢の知る〝幹部候補〟たちが在籍していなくても不思議はない。ないが……姫川ほどの家が、現総帥の一人娘、姫川の血統を継ぐたった一人の〝姫〟を学園へ放り込むだけ放り込んで放置状態なのは、普通ならばあり得ないことだ。

 ……ひょっとして。


「白雪さんの話では、姫川財閥の現総帥は名前だけのお飾りで、実務のほとんどは部下任せらしいが……この分だと、あの子の宝来進学の件も、父親の意向というよりは将来の〝お飾り〟を確保しておきたい幹部たちに上手く乗せられた結果なんじゃないか?」

「あー、だな。そういうアホらしいこと考えそうなヤツ、何人かいるわ」

「白雪さんが本当の放置子だったら、宝来でヘタを踏まないよう、〝お目付け役〟を同時入学させた可能性はあるが、幸か不幸か生粋の百合園育ちだからな。宝来へ放り込みさえすれば、後は無難に過ごして卒業するって踏んだんだろう。実際、白雪さんはとても上手に宝来学園に溶け込んでいる」

「……そうやって宝来を卒業させて、適当な大学で経営学でも専攻させて箔をつけ、姫川の後継者として祭り上げる算段をしてるわけか。もちろん実権は持たせず、父親と同じく飼い殺すつもりで」


 白雪のような育ちをしていれば、両親から愛されない孤独を抱え、擦れて歪んで育っていても、全然、全く、不思議ではない。令嬢の躾に関しては日本一厳しいと評判の百合園女子学院へ入学させられたことも、「私のことなど、家を維持する駒程度にしか思っていないということか」と恨む展開だって充分に考えられる。

 それでも、百合園で頑張っていたのに、家の都合でまた、宝来学園へと編入させられて。大学進学も、大人たちから決められて……情など欠片も向けられず、ただ〝姫川の娘〟という記号で扱われ続けた娘が、真っ当な大人として社会生活を送れるかといえば、普通はきっと、難しいのだろう。

 孤独に震え、情に飢え、自己を否定され……お金だけは山ほどある二十歳そこそこのそんな娘に〝夜遊び〟の一つでも教えれば、後は勝手に堕落していくに違いない――。


「――すごいな、姫川の幹部陣。見込み違いにも程があるぞ。これまで、白雪さんの何を見てたんだ?」


 あくまで勝手な予想ではあるが、現状から類推するにそう大きく外してはいないだろう幹部たちの思惑を、つむぎは思わず、盛大にこき下ろしてしまった。次世代の〝軽い神輿〟を作ろうとしたにしては、そのやり口がとてつもなく悪どいわりに、びっくりするほど現実が見えていない。まだ、社交界に興味がなかった白雪を〝幻姫〟と称した上流階級上澄みの方々の方が、白雪の実像を正しく捉えている。

 つむぎの隣では、木の幹に背を預けたままの亘矢が、古巣のあまりの脳内お花畑っぷりに、頭痛が痛い顔で深々とため息をついていた。


「……最初から〝人形〟として扱うつもりだから、個としての〝姫川白雪〟に興味がなくて、結果、何も見えてねぇんだろうな。普通なら、未来の幹部候補たちの集まりには姫さんも参加するだろうに、呼ばれてた雰囲気はなかった。幹部候補の何人かは、家での親父の語り口を真似してか、あからさまに総帥親子のことを馬鹿にした口調で喋ってたしなぁ」

「それでも普通は、神輿にする予定の相手がどんなパーソナリティの持ち主か、邸宅にスパイなりを送り込んで探らせないか? 将来的に堕落させるとしても、本人の性格に応じた堕落のさせ方というものがあるだろう」

「それこそ、『若い女なんか、イケメンさえ侍らせとけばご機嫌になるだろう』的な、あっさいこと考えてんじゃねー?」

「イヤイヤ……白雪さん、たぶんイケメンにそこまで興味ないぞ?」


 今期の宝来学園で〝イケメン〟といえば、生徒会及び風紀委員会の役職持ち男性陣と、特別寮生の七人だろう。宝来学園生徒は見た目の維持に金をかけられるだけ、雰囲気も含めたイケメン率はそこそこ高いが、中でも彼らはずば抜けて顔が良い。まだ4月にも拘らず、既に非公式のファンクラブが立ち上がっていると聞くから、その人気たるや相当なものだ。

 が、白雪が、そんなイケメンたちに心惹かれている様は、ない。それはもう、驚くほどにない。オリエンテーションの『鬼ごっこ』を通して親交ができたらしい特別寮の生徒たちと、挨拶プラス一言二言の雑談を交わしているところを見たことが何度かあるが、彼女が彼らへ抱いているのは、イケメンに浮つく乙女心でなく、まるで家族へ向けるような親愛の情だ。白雪が彼らを好意的に見ているのは疑いようのないことだが、それは彼らがイケメンだからではないということもまた、つむぎの目には明白だった。


「と、いうか。おそらくだが、白雪さん、顔を武器に迫ってくる男はむしろ好きじゃないぞ?」

「そういう場面に出会したのか?」

「そこそこイケメンと評判の男子が、食堂で白雪さんに粉かけようとしているところを見たことがあるんだが、見たことない絶対零度の表情で撤退させてたんだ。白雪さんみたいな可愛い子が、虫ケラでも見るような目で男を冷たく見下す様は、なかなか迫力があったな。百合園では令嬢教育の一環として、ナンパ撃退術まで教えているのかと感心した」

「いやそれたぶん、百合園は関係ねぇ気がするけど……まぁ、顔だけのチャラ男にホイホイされるタマじゃねぇわな、あの嬢ちゃんは」


 白雪が顔だけ男を嫌悪しているのは以前からだろうから、仮に幹部たちの思惑通りことが運び、次期総帥として迎え入れた彼女へ〝イケメンと夜遊び〟を教えようとした場合、彼らは見事な墓穴を掘ることになる。――まぁ白雪に関してはそれ以前の話で、彼女は別段孤独に震えてもいなければ情に飢えてもおらず、自己を否定されたとも思っていないので、幹部たちの計画は何一つとしてハマっていないのだけれど。


「……幹部たちの勝手な思惑に振り回されて、一人宝来へ放り込まれた白雪さんが、これ以上〝誰か〟の悪意で貶められていくのを、黙って見ていることはできないな」

「まぁ……姫川白雪に思うところがないわけじゃねぇけど。〝今〟のアイツに罪はねぇし、そもそも風紀委員長として、学園内での悪事に関してのタレコミを無視はできねぇ」

「つまり?」

「――頼めるか、つむ。〝4月19日の大浴場の最終確認〟を」

「もちろんだ。任せろ、コウ」


 誰より信頼している相棒に背を預けられることほど、嬉しいこともないだろう。

 ――笑って頷き、つむぎは亘矢と、軽く拳をぶつけ合った。


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