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4月17日〈回想・ルート共通イベント前〉①

ここからしばらく過去回想、始まります。


 ――4月17日、夜。


 大浴場での入浴後、いつもの定時ミーティング場所を訪れたつむぎは、滅多に見ない亘矢の困惑顔とご対面した。木の幹に背を預け、難しい表情で光るタブレット画面を見つめている亘矢は、いつもより三割増で大人に見える。


「……コウ?」

「あぁ。――来たか、つむ」

「そりゃ、時間だから来るけど……何かあったのか?」


 何となくだが、飯母田関連な感じはしなかった。会社や店に問題が勃発していたら、亘矢はあからさまに深刻な雰囲気を纏うだろうし、悠長にタブレットと睨めっこなんてアクションは取らず、つむぎを出迎え開口一番、「問題が起きた」と話してくれるだろう。

 今の亘矢から伝わってくる感情は、思いもよらない情報が飛び込んできて何が何だか分からない、どシンプルな困惑だけだ。しかも、この感じはおそらく、飯母田関係ですらない。


「まぁ、あったっちゃあったんだが……あぁ、会社関係じゃない。全くの無関係と言い切れるかは分からねぇけど、現時点では関係ない話だ」

「……ふむ?」

「……つーか、説明がむずいな。見せた方が早いか」


 亘矢の手招きに従い、つむぎもいつもの定位置に落ち着いて。彼の操作するタブレット画面を、何となく眺めていると。


「――これ、なんだけどな」

「これって……飯母田が亘矢に用意したメールアドレス、だよな?」

「あぁ」


 ご維新以前から続く商店の常として、IT化の波に乗り遅れていた『和菓子いいもだ』ではあったが、いよいよ会社を設立するとなれば、そんなことも言っていられない。会社設立前後で亘矢が参入してくれたこともあり、かなり高度なITシステムを取り入れることができた。公にはなっていないが、『飯母田製菓』専任のシステムエンジニアでもある亘矢は、飯母田の仕事をする上で使うメールアドレスを複数所持している。

 今、彼が開いているメールは、その中でも最もアクティブなアドレスに送られてきたもののようだが。


「……なんだ、これは」

「な? 意味分からねぇだろ?」

「いや、文章の意味は分かるが……どうしてこの話を、〝飯母田〟のメールアドレスに送ってきたのかが謎だな。風紀委員会にだって、Web管理の通報窓口くらいあるだろ?」

「もちろん。けどまぁ、〝これ〟を送ってきた奴は、あくまで俺とつむに知らせたかったのであって、宝来の風紀は通したくなかったんだろうな」

「そこが分からん。こんなの普通に、風紀案件じゃないか?」


 タイトルはシンプルに『狩野亘矢へ』となっているそのメール、問題なのは本文に書かれている内容だ。これが本当だとしたら、宝来学園はそこそこの危機と直面していることになる。

 その、本文とは。

 

「『来る4月20日、一年生の姫川白雪を宝来学園学生寮から退寮させるべく、とある事件が起こる。詳細を調べることは叶わなかったが、どうやら女子寮の大浴場管理の不手際を責め、退寮へと追い詰めるらしい。姫川白雪が管理の不手際の責を負うことがないよう、前日の4月19日は飯母田つむぎに大浴場の最終確認を任せ、確かに彼女が最終確認を行ったという証拠を残して欲しい』って……これが事実だとしたら、ちまちま私が最終確認するより、風紀で一晩中、大浴場を見張っていた方が明らかに早いぞ?」


 ――そう。メールが知らせてきたのは、何だかんだつむぎと仲の良い後輩として認知されつつある、姫川白雪の危機だったのだ。あれほど懐いてくれて、何なら週一で直販サイトからお菓子をご購入くださっている〝お得意様〟(届け先が寮ではなく姫川本邸住所になっているので、おそらく家の使用人へサイトのURLを伝え、家政に必要な箱菓子類を『飯母田製菓』から買うよう指示してくれているのだろう)の危機とあらば、動くこともやぶさかではないけれど。果たしてこれは、たかが〝ボランティア同好会〟が首を突っ込んで良い案件なのか、そこは大いに疑問である。

 その疑問を素直に零せば、亘矢もうん、と頷いて。


「俺もそう思うが、どんな管理不手際を責めるつもりなのか分からねぇしな。もしも姫川白雪を本気で追い出すつもりなら、相当な〝管理不手際〟を捏造するため、〝犯人〟自ら大浴場へ行くつもりだろうけど……大浴場へ向かう廊下にも、脱衣所にも、肝心の大浴場内にも、人が隠れられる場所なんかねぇからな。風紀が見張っていたら、すぐ分かる。〝犯人〟がよっぽどのマヌケじゃねぇ限りは、引き返して計画修正くらいするだろ」

「確かに。犯行を未然に防ぐことはできても、〝犯人〟が諦めない限りは、結局白雪さんの危機は去っていないことになるのか」

「それどころか、犯行計画が漏れていたことに気付いて、もっと巧妙な犯行を企てる可能性もある。そう考えたらまぁ、〝犯人〟の警戒を適度に緩めつつ、けれどその狙いをしっかり潰せるようにしておくっつーのは、理に適ってるか」

「だとしても、最終確認を私がする意味は? それこそ、女子風紀委員のどなたかにお願いすれば良い話では?」

「風紀案件にした時点で、ことは公になったも同然だろ。〝犯人〟の狙いを潰す必要はあるが、あからさまに潰し過ぎるのも不自然ってなったら、姫川白雪と適度に親しく話せて、彼女の行動をさり気なくコントロールできるつむは、最終確認役に適任ってことじゃねぇ?」

「……ふむ。そうなる、か?」


 いまいちピンと来ないが、このメールを送ってきた〝誰か〟が、4月20日に起きる〝事件〟に関して、風紀を通すことはせず、〝事件〟そのものを阻止することにも消極的で、しかし〝白雪退寮〟という狙いだけは阻止したいと考えていることは、亘矢の言う通りだろう。でなければわざわざ、こんなメールを〝飯母田〟の一員としての〝狩野亘矢〟へ送っては来ることはないはずだ。


「……しかし、何者だ? この学園に、コウと飯母田の繋がりを知る者は居ないはずだぞ」

「学園には居なくても、飯母田の取引先を辿れば、どっかで俺には行き着くだろ。飯母田のITシステムを組み立ててく中で外部のエンジニアたちともやり取りしたし。取引内容を一元データ管理するために、メインの取引先には直接出向いてシステム導入してるし。別に俺――〝狩野亘矢〟が飯母田内部の人間だってのは、絶対的な秘密じゃねぇよ」

「そりゃそうだけど。コウと外部のやり取りはデジタル上であることがほぼだし、取引先にだって、よほど信の置ける、昔からの知り合いのところにしか行ってもらってない。当時のコウが中学生だったってこともあるから、絶対的な秘密じゃないにしても、コウの存在についてはふんわり口を噤んでもらってるはずだぞ」

「つむ、IT社会をナメてんなー? ごく一部の取引先が知ってりゃ充分だよ。社外へは口を噤んでも、社内ではそんなこともねぇだろ。取引先のどっかにハッキングでも仕掛けりゃ、俺が飯母田とズブズブなことなんざ、秒で分かるって」

「わざわざハッキングしてまで、そんなことを調べる暇人がいるのか……」

「〝俺〟の情報を抜くのがメインだったかは分かんねぇけど。何かの理由で、飯母田の取引先を探ろうとハッキングしてみたら、システム関連で頻繁に俺の名前が出てくる。どうやら飯母田の重要人物っぽいなと調べたら、何と現役高校生で、飯母田の社長令嬢と同じ学校に通っているらしい。状況から見て、コイツは令嬢の右腕かなんかなんじゃないかと当たりをつけ、接触を試みた――っつーシナリオの可能性もある」

「ハッカーってそんな風に情報を追っていくんだな……」

「クラッキング仕掛けて侵入に成功したところで、中の情報の精査は人力だからな。単純な情報抜き取りだけなら自動化できるけど、特定の情報を調べるために侵入するんなら、ハッカー自身が頭使うのが一番速ぇよ」


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