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4月19日〈ルート共通イベント・幕前〉①

序盤の大きなイベントが始まります!


 ――宝来学園高等部の学力偏差値は、全国的に見た場合、上の下辺りをウロウロしている。


 この偏差値から分かるのは、宝来学園高等部が〝大学進学できる程度の学力は努力すれば与えてくれるけれど、日本の最高学府を目指す生徒が集うほどの超進学校ではない〟という事実であろう。高等部生徒の進路は、宝来大学がおよそ六割、外部進学が四割程度という話なので、この偏差値は学園の実情を概ね正確に捉えていると考えられる。

 要するに、何が言いたいかというと。


(……授業内容や進度が、それほど難しいものでなくて良かったわ)


 放課後、寮の自室にて数学の宿題を苦戦しつつも解きながら、白雪はしみじみ、そう思っていた。多くの文系学生と同じく、白雪も五教科の中で、数学が最も苦手だったりする。


(ちょっと期待していたけれど、やっぱりステータス補正なんて、現実に反映されはしないわよね)


 入学二日目のオリエンテーションにて、二年A組と協定を結んで見事一年優勝を勝ち取った一年A組。その立役者であり、協定の一環として特別寮の『警察』リボンを一網打尽にした白雪は、いつの間にやら〝悪魔の知略を受け継ぐ者〟という異名を手に入れたらしい。そんなつもりはなかったけれど、つむぎの後継者と目されて悪い気はもちろんしないので、甘んじてその異名は受け入れている。

 その、受け継いだ悪魔の知略とやらで手に入れたリボンの効果によって、苦手な数学のステータスが少しでも上がることを、期待しなかったと言えば嘘になるけれど。――現実はやはり、ゲームのように楽ではないようだ。


(ステータスを上げたければ、やっぱり地道に、努力一択というわけですか)


 無音で頷き、白雪は再び、参考書と睨めっこしつつ宿題に取り組む――。


「ただいま~!」

「おかえりなさい、千照さん。部活動、お疲れ様でした」


 やっつけていた数学の宿題に、どうにかこうにか目処がついたところで、ルームメイトである千照が帰ってくる。新聞部に所属している彼女は、割と毎日、帰りが遅めだ。


「白雪ちゃん、今日も放課後は寮?」

「はい。特に用事もありませんでしたから」

「で、宿題してたんだ? 真面目だねぇ」

「他にすることもありませんし。わたくしは外部入学組ですから、授業についていけないと、百合園の恥になってしまいます」

「あー、確かに。お金持ち校からお金持ち校への進学も、楽じゃないね」

「えぇ、まったく」


 うんうん頷き合ってから、千照は一度荷物を置いて手洗いうがいを、白雪は机の上を片付ける。

 お互いに手が空いたタイミングで、千照が部屋備え付けの簡易冷蔵庫から、それぞれのお茶ペットボトルを出してきた。


「お茶にしよ~」

「ありがとうございます」


 真ん中の座卓に向かい合って腰を下ろし、まずはお茶を飲んで喉を潤す。言葉がなくてもそういった行動が自然になってきた辺り、今のところ、千照との関係は良好なのではなかろうか。


「……にしても、白雪ちゃんの放課後って、思ったより暇だよね?」

「まぁ、宿題以外することが見当たらない程度には、暇ですね。暇だと、何か問題が?」

「うーん……まぁ、入学してすぐは、授業を受けつつ地道にステータスを上げてくフェーズだから、個人のイベントが一つ二つあるかな、って程度なんだけど。それでも、全員のイベント一つ目をこなすとなると、結構な日数忙しいでしょ?」

「七日は最低でも必要、ということですものね……それは、確かに忙しいかもしれません」


 千照曰く、白雪たちが今いる世界と類似している乙女ゲーム『白雪姫と七人のイケメン』では、ゲーム内での一日が『授業時間』と『放課後時間』とに分かれ、『授業時間』に主人公の個人ステータスを、『放課後時間』に攻略キャラの好感度を上げていく仕様となっているらしい。主人公の個人ステータスはゲーム本編をクリアするのに欠かせないし、個人ステータスが上がればそれだけ好感度も上がりやすくなるしで重要、キャラ好感度はもちろん、上げなければ恋愛パートが進まないしで必要不可欠という、あんまりサボれないゲームなんだとか。


(しかも、主人公のステータスには『学力』と『人間的魅力』の二つがあって、それぞれも細分化されていて、合わせれば十二項目もあるわけですものね……)


『人間的魅力』のステータスに関しては、『知力』と『体力』だけは『学力』の五教科と体育を頑張れば勝手に伸びるが、『外見』『コミュニケーション能力』『愛情深さ』に関しては、日常パートでの会話や休日の私服選択などが関わってくるという。本当に、全ての場面と選択肢で気を抜けない、かなりの難易度を誇っているゲームだったのだろう。


「けど、見た感じ、メイン七人の攻略が全く進んでない、ってわけでもないんだよねぇ。聖蒼くんとも仲良しだし、B組の黄清くん、翠斗くんとも顔を合わせたら普通に話してるし。学校の食堂で会ったら、先輩組とも話してるもんね?」

「そうですね。幸い……と言うべきなのか、『鬼ごっこ』にてリボンを狙った攻防戦を通して、顔見知りにはなりましたし。特に福禄くんとたくさんお話しできたことで、他の特別寮の方々もご紹介頂けて、気にかけてもらっています」


 一応、表向きのストーリーは、そういうことになっている。


「個人的には、聖蒼くんがこの時期に、特別寮の他六人を友人に紹介できるくらいの関係性を築けてることも、びっくりだけど……」

「『ゲーム』では違ったのですか?」

「福禄聖蒼くんってね、入寮式でも言ってたけど、特別寮の中で唯一の、一般家庭出身なんだ。コミュ力が低いわけじゃないんだけど、入学した当初は『こんなすごい学校に呼ばれたんだから頑張らないと!』って、テニス一辺倒の生活で。とてもじゃないけど、他の寮生と打ち解ける心の余裕はない、って感じ」

「あ~、なるほど」


 彼の性格上、もしも〝記憶〟が甦っていなかったら、そうなっていた可能性は充分にありそうだ。聖蒼……もそうなのだろうけれど、彼の前世〝ペルセ〟も、割と真面目で思い詰めるタチだった。


「調べてみた感じ、割とみんな、そういう細かい部分がゲームと食い違ってるんだよね。晴緋先輩がリーダー気質なのは原作通りなんだけど、『ゲーム』の先輩は熱血が過ぎて他人の気持ちに疎いところがあったのに。取材した先輩は、周囲への配慮もちゃんとできる、本当にしっかりしたリーダー、って感じだったし」

「そうですね、確かに」

「俺様だけど世話焼きな橙雅先輩は、世話焼き気配りが上手なところはその通りなんだけど、俺様気質なんて影も形もなかったり」

「あぁ、それはなさそうですね」

「黄清くんは物腰柔らかだけど気弱ではなさそうで、どっちかといえば腹黒そうというか」

「腹黒いというか、まぁまぁ毒舌なんですよねー」

「翠斗くんは周囲へのコンプレックスが高じての影あるツンデレなんだけど、なんか最近、どんどん影が薄れてきているというか」

「まぁ……あの人たちに囲まれていたら、それも仕方ないかもしれません」

「深藍先輩は、……ふわふわした話し方だけ原作通りな、ただの天然キャラになっちゃってるし」

「仕方ない、アレは仕方ないです」

「一番原作を感じるのは紫貴先輩だけど……特別寮の人たちには気安いというか、冗談を言うようなキャラじゃないのに、軽口を叩き合って戯れてたりとか、やっぱり違う部分もあるというか」

「そういうものですか……」


 相槌を打ちつつ、白雪は内心、千照の情報収集力に舌を巻いた。

 自身の持つ『ゲーム』知識を前提にしつつ、千照は目の前の彼らを色眼鏡なく観察し、現状の彼らの情報をありのまま得て、『ゲーム』との差異を冷静に分析している。本人が言っていた、〝三界千照は情報収集能力特化型キャラ〟というのは、どうやら掛け値なしの事実らしい。


「なんでそんなことになってるのかは、まだ情報不足で何とも言えないんだけど。白雪ちゃんも『ゲーム』とはかなり違うし、特別寮の七人にも、〝逸れる〟きっかけが何かしらあったんだろうね」

「えぇ……そう、だと思います」


 内実を知っているがゆえ、曖昧な返答しかできない白雪に何を思ったか、慌てたように千照は手をぶんぶん振って。


「あっ、でも! 白雪ちゃんも『ゲーム』とはかなり違ってるし、おんなじように違ってる彼らとの相性は良いと思う! 見た感じ、全員と順調に距離を縮めてると思うし!」

「そうですか? ……そう見えてるなら、良かった」


 微笑んだ白雪に、千照は大きく首肯する。



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