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オリエンテーション・鬼ごっこ〈ステータス決定イベント?〉②


(ここを〝ナワバリ〟にした一年C組さんたちって、肝が据わっているわよね)


 普段は上靴で歩く宝来学園高等部の校舎たちだが、この『鬼ごっこ』の間だけは特別に、校舎内を運動靴で走って良い許可が降りている。この『鬼ごっこ』のために危険物は予め片付けられ、終わった後は清掃業者が入るらしいとクラスメイトから聞いたが、そうまでして『鬼ごっこ』をしたいものだろうか。

 ましてや、この〝特別教室A棟〟は、壁や床の材質からしてもう、いわゆる〝普通〟の校舎ではない。百合園でお嬢様仕草を叩き込まれた白雪など、こういった空間に入ると、反射で歩き方から振る舞い方まで変えてしまう。――こんな場所で追いかけっこなど、頼まれてもごめんだ。

 ちなみに、その一年C組は――。


「……静か、ですね?」

「急にどうしたの? まぁ良いけど。――少し前まで、頑張って隠れてた子たちもいたんだけどね。ルル、じゃなかった、飯母田先輩の二年A組に誘い出されて、まんまと全員アウトだったよ」

「あぁ……騙されちゃいましたか」

「アフィとビクト――晴緋と橙雅が爆笑してたけど、〝今世〟のルルって〝策謀の魔術師〟とか〝悪魔の知略者〟とか呼ばれてるんだって? フランといい、変なところで〝前世〟と被るよねぇ」

「あの、ペルセ。お継母様――つむぎさんの、ことは」

「――分かってる。それも、メテオから聞いた。ルルは……飯母田先輩は、〝前世〟の記憶を受け継がなかった、って。だから、先輩の前で、〝前世〟の話はしないよ」

「……えぇ。ありがとう」


 話している間に、目的地へ着いたらしい。〝特別教室A棟〟一階の、ここは……生徒、懇談室?


「――戻ったよ」


 そう言って、ペルセ――聖蒼が扉を開けた、先には。


「「「「「「フラン」」」」」」


 声を揃えて振り向く、六つの影。

 ……遠い遠い〝あの世界〟で視た〝最期〟の景色が、ふと、胸を過ぎる。


(……あぁ。あの頃は、気付かなかったけれど。〝彼ら〟はわたくしにとって、紛れもなく)


「……ただいま、みんな」


 ――家族、だった。


「おかえりぃ、フラン!」

「良かった。元気そうだな!」

「昨日は表情も固かったし、心配したんだから」

「本当……本当に、フラン、なんだね?」

「これでやっと、全員揃った~」

「……まぁとにかく、〝今世〟でも逢えて、何よりだ」


 口々に話す彼らは、少しずつ〝前世〟と違っていても、確かに〝彼ら〟で。


「――アフィ。ビクト。デーラ。ヴィル。ヨーテ。ジェネ。……本当に、みんな、なのね」


 言葉では表現できない感情が、胸の内から湧いて、止まらない。今にも熱い雫が頬を伝いそうな中、白雪は必死に堪えて、一歩一歩、近づいた。


「あいた、かった。ずっとずっと……〝前世〟からずっと、みんなに、あいたかった」

「俺たちだってそうだよ!」

「話したいことが、山ほどあるの」

「うん、聞かせて」

「でも……、その前に」


 充分近づいた白雪は、彼らが彼女の変化に気付くより先に、素早く動き。


「へ?」

「え?」

「あっ!」

「ちょ、え?」

「えぇっ!」

「あっ、おま!」

「フラン――」


 ――流れるような動きで、七人全員のリボンを、連続でプチプチともぎ取った。

 最終、反対側の聖蒼のリボンまでしっかり奪ってから、改めて獲ったリボンの数を数える。――全部で、七本。


「……よし!」

「「「「「「「――いや、よくねぇし!!!!!!!」」」」」」」


 ツッコミが揃う〝彼ら〟は、〝今世〟も変わらず仲良しだ。

 今度こそ、白雪は涙ぐんで笑った。


「みんなが変わってなくて、本当に嬉しい……」

「いや騙されねぇから!」

「何で? 何で俺ら今、リボン取られた?」

「しかもフランに! フランなんかに騙されたのショック!」

「違うデーラそこじゃない! ショック受けるのは絶対そこじゃない!」

「いやもう鬼ごっこも終盤だし、今から出たところで捕まえられる『脱走者』は限られるだろうけど。にしても、何で!?」

「フラン、あんなに素早く動けてすごいねぇ~」

「何となく変だとは思ったんだよ……クッソ直感信じれば良かった……!」


 狼狽の仕方まで、〝前世〟でイタズラを仕掛けたときを彷彿とさせるもので。

 泣きたかったけれど、ひとまず〝彼ら〟を落ち着かせるのが先だなと、白雪は頭を切り替えた。


「ごめんなさい。これにはえっと、色々と深いわけが……たぶん、あって」

「たぶん? たぶんてなに?」

「もちろん一番は、つむぎさんとのお約束ゆえなのだけれど」

「へ? つむぎ? フラン、もうつむぎと仲良くなったん?」


 きょとんと尋ねてきたのはアフィ――〝今世〟の大天晴緋だ。つむぎとは一年生の頃から同じクラスで、この中ではおそらく、一番過ごす時間が長い。彼女についてよく知っているからこそ、たった一日で、白雪が〝つむぎ〟呼びを許されるほどの仲になったことを、単純に驚いているのだろう。


「えぇ。校門でお見かけした際は、まさかお継母様に〝前世〟の記憶がないなんて思わず、失礼を働いてしまったのだけれど」

「あぁ、それはね」

「うん、僕もびっくりした」

「つむぎさんは広い心でお赦しくださって、その後も、気さくに話してくださったの。昨日、夜に寮の庭でお会いしたときもお優しくてね。たくさんお話しして、仲良くなれたの」

「へぇ~、さすがフランだな」

「――で? その飯母田との約束って?」


 話を本題に戻したのはジェネ――布袋紫貴。〝前世〟でも、〝七番目〟ながら皆のまとめ役だったが、〝今世〟も相変わらずらしい。


「それは、単純な話よ。〝わたくしが『警察』のリボンを奪って数を減らす代わりに、二年A組の『脱走者』は一年A組の『市民』を狙わない〟って取引」

「うっわぁ僕らのフランがイヤな知恵つけてるぅ……」

「さっきからちょくちょく失礼よね、デーラ。わたくしこれでも、あなたたちが〝あの世界〟を去った後、二十年間も国を動かしていたんだから。それで悪知恵の一つや二つ、身に付かなかったら逆に不自然でしょう」


 基本誰に対しても辛口な〝三番目〟――デーラこと、〝今世〟の恵比黄清が、気に食わないとばかりに唇を尖らせた。フランが為政者だったことを疑うわけではないが、それはそれとしてイヤなものはイヤ、らしい。〝今世〟の彼は、見た目完全におっとり控えめな和風美人のため、その表情はなかなかのギャップである。


「なるほど、取引内容は分かった。……チッ、飯母田のためって話なら、叱れねぇな」

「ありがとう、ジェネ」

「よし、一件落着と」

「いや、どう考えてもまだでしょ」


 楽しく漫才している、ビクトとヴィル――沙門橙雅と寿翠斗に微笑みかけて。


「えぇ。ここまでが、この『鬼ごっこ大会』に関係する事情。……もう一つの、深いかもしれない事情は、ちょっと話が変わってくるわ」


 そう前置いて、白雪は、近い過去を回想する――。



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