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オリエンテーション・鬼ごっこ〈ルート共通イベント〉④


 白雪の意外性に感嘆し、つむぎは息を呑んだ。


「…………驚いた。白雪さん、君は本当に、色々と予想外だ」

「ふふ、つむぎさんの意表を突けましたかしら?」

「さっきから、驚かされてばかりだよ」


 つむぎの返事に笑って頷いた白雪は、しかし次の瞬間、頬に手を当て顔を顰めてため息をつく。


「ですが今回は、『臨時警察アイテム』とやらにまんまと踊らされたクラスメイトたちが、他のクラスによって持ちかけられた陣地取引に頷いてしまいましたので、最も有用な策が初手から使えませんでした。――ゆえにわたくし、つむぎさんがいらしてくださるのを、お待ち申し上げていたのですわ」

「……うん?」

「二年A組の先輩方が、他クラスの『脱走者』の方々を積極的に減らしていた様を拝見しますに、つむぎさんもこの『鬼ごっこ』の〝穴〟にお気付きなのではと思いまして」

「えっと、それは……」


 これは、ひょっとしてアレか。つむぎですら考えついただけで保留にしていた、禁断策を持ち出そうとしているのか。


「『脱走者』にとって、自身を狩る『警察』は厄介な存在でしょう? わたくしども『市民』であれば、ルール上問題なく、『警察』のリボンを無条件で奪えますわ。――我々一年A組で『警察』のリボンを奪って参りますので、二年A組の『脱走者』さんとは不可侵協定を結びたいのです」

「やっぱりソレか!」

「いけませんでした?」

「コレ実行するとほぼ勝ち確になるから、さすがに敢えての抜け穴じゃなくマジな方の見落としじゃないかと思って、実行は保留にしてたんだよ」

「まぁ、お優しいこと。見落としだとしても、穴は穴でしょう。潜らない理由があります?」

「……ない。ないが、さすがに主催と運営が可哀想だなと」

「気にすることはありませんわ。それに実際のところ、つむぎさんが思うほど、この作戦とて〝勝ち確〟ではございません。本来であれば、たった一クラスの『脱走者』さんを味方に得たところで影響は限定的ですし、我々『市民』が奪える『警察』リボンとて、一本か二本がせいぜいです。『警察』は実力のある方々ですから、『市民』の中に〝裏切り者〟がいると分かれば、その後の行動にはより気をつけられることでしょう。お互い、状況を有利にする取引にはなっても、決定打にはなり得なかったはずですもの」

「そんな風には全く思ってない、イイ笑顔で言われても、反応に困る。――そもそもこの作戦を思いついてる時点で、『脱走者』側は同じ『脱走者』を減らせることに気付いて実行済みだし、『市民』も『警察』を狙うなら、合図で同時多発的に仕掛けるぐらいの策は練るだろう。〝本来〟なんて前提は無意味で、コレが出れば〝勝ち確〟なのは揺るがないよ」

「そんなことは……えぇまぁ、その通りですけども」


 詭弁を弄しようとした白雪だが、つむぎのツッコミにはケチのつけようがなかったらしく、最終的には完全同意してきた。清純な美少女に見える白雪の裏側は、上流階級のお嬢様らしく、なかなかハードな策謀家のようだ。……どうしよう、昨日言ってた〝姫川の力が必要なら、早いうちに掌握しておく〟が本気だったら。


(早いうちに、コウヘ相談しておこう)


 心の中にある〝やることリスト〟の最上段へ〝白雪についての相談〟を移動させ、つむぎは深々と息を吐き出した。


「――つまり白雪さんは、『市民』同士で喰い合う最善手が取れなかったから、次善の策である『脱走者』との裏取引を採用したい、と」

「実際、アプリで『脱走者』の動きを見ても、二年A組以外はさほど脅威ではありませんし……って、あら?」


 スマホの画面を見た白雪の顔から笑顔が消え、怜悧な光がブルーサファイアのような瞳の中を迸る。

 その様はやはり、一国の〝王〟のような風格を纏っていて――、


「……つむぎさん、さすがですわ」


 けれど、スマホの画面から顔を上げた彼女の目は、いつもと変わらぬ敬愛の眼差しで、ひたとつむぎだけを捉えている。


「つむぎさんのことですから、ただ『脱走者』を減らすだけでは終わらないだろうと予想していましたが……なるほど、〝こう〟来ましたか」

「一応、この〝体育館エリア〟だけは保留にしてたんだ。私自ら中の状況を確認してからにしようと思ってね。――この〝策〟は、私と同等にアプリを使いこなせる者ならすぐ見破ってしまうから、あまり意味がなくて」

「わたくし以外の二人なら、騙されるでしょう。それぞれ『臨時警察』がガードしていますけれど、二年A組……というより、既につむぎさんがここまで入り込んでいる時点で、ほぼ無意味ですわね」

「白雪さんは、どうやってアプリ係に選ばれたの?」

「外部入学生のガードは甘いという先例に倣ったのと、友人の千照さんが『白雪ちゃんに持たせて損はない』と推してくださったおかげ、でしょうか」

「ふむ。一年A組の残留率の高さを見るに、三界さんの先見の明は正しいようだ」

「えぇ……そうなのだろうな、と思いますわ」


 頷いて。――白雪は、グッと顔を上げる。


「――つむぎさん。取引ではなく、お願いになってしまいますが。わたくしが必ず、『警察』の数を半数以下に減らしてみせます。ですのでどうか、一年A組はお見逃しくださいませ。必要であれば、獲った『警察』リボンと一緒に、わたくしの『市民』リボンもお渡しいたしますわ」

「どの陣営のリボンであれ、獲得したリボンのクラスを超えた譲渡は、一律で禁止されているよ。『警察』リボンは勝敗判定にも関わってくるからね、私は受け取れない」

「で、すが……」

「――けれど」


 つむぎのスマホにも、次々とクラスメイトたちから、本気を出しつつある『警察』と攻勢に転じた『脱走者』たちの情報が届いている。今回の一年生は隠れるのが上手く、まだ生き残りも多いため、残り十分を切っても逆転される可能性は充分あった。


「こちらとしても、『警察』を警戒せず、残り時間を使えるのはありがたい。――取引しようじゃないか、白雪さん」

「つむぎさん……!」

「二年A組に、一年A組は狙わないよう、指示を出すよ。ついでに、体育館内の主要な『脱走者』も狩っておこう」

「ありがとうございます! わたくしも皆に、二年A組は味方であること、『警察』を減らすのも作戦のうちであることを伝えますわ! ――あ、あとこれを」


 そう言って、白雪がジャケットの内ポケットから取り出したのは。


「まさかの『監察内通アイテム』!?」

「『臨時警察アイテム』を探していて見つけたのですけれど、『市民』には無用の長物ですし。よろしければお使いくださいませ」

「そういえば、リボンの譲渡は無しというルールだったけれど、アイテムの譲渡禁止の項目はなかったな……」

「つむぎさんが使えば、『警察』を威嚇する程度の効果は発揮するでしょう」

「むしろ強すぎて恨まれそうだ……」

「あら。こういった勝負ごとに関しては、勝っても負けても恨みっこなし、が宝来の精神なのでしょう?」

「まぁ、それもそうか。――ありがたく、もらっておくよ」


 頷いて、つむぎはハシゴの板を軽く蹴り、白雪の隣に着地する。『監察内通アイテム』――黒いカラー帽子を手渡してきた白雪は、心なしか、頬を赤く染めていた。


「つむぎさんが文武両道のパーフェクトウーマンでいらっしゃるというお話は本当ですのね……なんて凛々しいお姿なのでしょう」

「……なんの噂を聞いたか知らんが、フェイクニュースというやつだぞ、それは。座学五教科と体育がそれなりにできるだけで、他は人並みか、人並み以下の人間だ」

「ご謙遜、ですか?」

「事実なんだよなぁ……」


 勉強と運動ができれば完璧人間とは、どこの世界線の話だろう。社会に出ればそんなもの、むしろ役立たないことの方が多いだろうに。

 つむぎがクラスメイトとそこそこ気安くやっていけるのも、この一年で勉強以外のヘマを散々お披露目したからだというしょっぱい事実は、ひとまずまだ仕舞っておくことにして。


「――さて。白雪さん、時間がないぞ」

「っ、そうですわね!」

「私が飛び出して、目につく『脱走者』は片付ける。その騒ぎに紛れて、君は外へ!」

「承知いたしました!」


 これより十分後、一年、二年のA組が揃って『鬼ごっこ』という名のバトルロイヤルを勝ち抜く決定打となった密約を胸に、二人は大道具収納庫から飛び出していく――。


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