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オリエンテーション・鬼ごっこ〈ルート共通イベント〉②




『鬼ごっこ』開始から、十数分が経過した頃。

 ――宝来学園のあらゆる〝エリア〟にて、『脱走者』の悲鳴が響き渡っていた。


「おい! さっき、同じ『脱走者』にリボン取られたんだが!」

「『脱走者』が『脱走者』のリボン取るのはアリなのか!?」

「審判!!」


 各エリアには、互いに死角を補う位置で、審判の風紀委員たちが立っている。

 問われた審判役の風紀委員は、内心マジでやったのか……と慄きつつ、表面上は冷静に答えた。


「ルール上は、問題ありません。『脱走者』の勝敗に関わるのは『市民』のリボン数のみで、同じ『脱走者』のリボンを奪っても意味はありませんが、〝取ってはいけない〟というルールもないので」

「けど、取られたら脱落なんだよな!?」

「そうですね。それはハイ、ルールなので」

「そうかアイツら、ライバルの数を物理的に減らして……!」

「誰だこんな悪魔的策略を考えたのは――」


 参加者全員がリボンをつけ、〝取られたら脱落〟という共通ルールが設けられた時点で、実は今回の『鬼ごっこ』は、前回までとその性質を大きく変えている。〝逃げ〟と〝追い〟の役割は表面上のものに過ぎず、『脱走者』の場合、〝いかにして、クラス全員で『市民』リボンを多く獲得するのか〟によりフォーカスが当てられた、知略ゲーム的要素が強くなっているのだ。

 特に今回、〝『臨時警察アイテム』がない限り、『市民』は『脱走者』のリボンを奪えない〟、〝『監察内通アイテム』がない限り、『脱走者』は『警察』のリボンを奪えない〟という縛りは明文化されていたが、『市民』が『市民』のリボンを奪うこと、『脱走者』が『脱走者』のリボンを奪うこと、――『市民』が『警察』のリボンを奪うことについては、はっきりと規定されていなかった。


(何も、馬鹿正直に『市民』のリボンを狙うだけが、勝ち筋ってわけじゃないんだよなぁ)


 同じ『脱走者』のリボンを奪って他クラスの実動数を減らし、相対的に自クラスの数を増やすことで優位に立つのも、立派な作戦の一つというわけだ。『警察』を常に警戒しながら、二百もない『市民』リボンを三百人以上のライバルたちと奪い合うより、目につく『脱走者』を片端から減らしつつ、『警察』にも負けない運動エリートたちに『市民』リボンを狙ってもらった方が、クラス対抗戦においては間違いなく効率的である。


 ――今回の場合、〝敵〟は『市民』でも『警察』でもなく、二年A組以外の『脱走者』、全てなのだから。


「さいっあくだアイツら! オイ、どこのクラスだった!?」

「三年じゃなかったような……」

「――二年A組だよ! 間違いない!」

「うわぁ今年もやりやがった……!!」

「悪魔の知恵の持ち主と、素直な脳筋バカ連中を、同じハコに放り込むんじゃねぇよちくしょう!!」


(なんかめちゃくちゃ失礼なこと言われてるなぁ。悪魔の知恵の持ち主とは、なかなかなディスられっぷりじゃないか?)


 勝負事において、情け容赦は無用――というのが、宝来学園のモットーだったはず。上流階級は優雅で上品なように見えて、実質は結構なハードサバイバル社会のため、勝敗を決する系の行事ごとの場合、ルールの裏をかいて勝ちに行く姿勢は、むしろ推奨されている。このときばかりは、家柄や学内序列を持ち出すことこそ無粋とされているので、つむぎもこうして遠慮なく、「先輩たちからリボンを奪え」とクラスメイトに指示できるわけだ。


(さてさて戦況は……おぉ、順調だな)


 制限時間四十分のうち、残り半分も近い段階で、『市民』リボン獲得数は二十を超えている。単純に他の『脱走者』と分け合えば平均十五本のところ、五本分、リードしている形だ。〝遊撃隊〟からの情報によれば、走り回って逃げていた『市民』のリボンは、他クラスの『脱走者』に取られた分含め、概ね取り尽くしたとのこと。


(まぁ、犠牲もゼロとはいかなかったが。〝遊撃隊〟のうち、およそ三分の二が脱落……とはいえ、あの派手な動きをしつつ三分の一が生き残っている辺り、やはりウチのクラスの運動部は粒揃いだな)


 今回の作戦において、各運動部のエース級を務めているクラスメイトには、誰よりも目立つ『脱走者』らしい『脱走者』の動きを担当してもらった。即ち、目についた『市民』をとにかく全力で追いかける、とても分かりやすい〝追い〟役である。足が速い面々が揃っていたこともあり、彼らの活躍は遠目に見ても大変際立っていた。

 ――そして、目立てば。『警察』にも、見つかりやすい。


(『市民』が分かりやすく追われているのに、まさか来ないわけにもいくまいよ。とはいえ、〝そちら側〟に生徒会の会長以外の役員を投入した辺り、これが撹乱だということは、向こうも分かっているみたいだが)


『監察内通アイテム』が見つかっていない現状、警察の数を減らす術としては、『市民』の誰かを味方に引き込む以外ない。特別寮組が信用されていない可能性もあるが、『警察』のみはっきりと、〝『警察』は『脱走者』のリボンのみ奪う役目である〟と明記されているのだ。――まぁ、そうルール付けしなければ、つむぎを始めとした各クラスの作戦担当が、真っ先に自クラスの『警察』、二年A組の場合は大天晴緋を買収しただろうから、正しい判断ではある。

 ちなみに、今回の『鬼ごっこ』における『脱走者』の〝敵〟が他クラスの『脱走者』であるのと同様、『市民』にとっても競う相手は他の『市民』だ。そのため、ゲーム中にどこかのクラスの『市民』と〝あなたのクラスの『市民』を狙わない代わりに、目についた『警察』のリボンを奪ってほしい〟なんて裏取引を交わす作戦は、実のところめちゃくちゃ有効だったりする。新入生が生え抜きの宝来生であれば、宝来イズムはもう充分染み付いているだろうから、実行も可能な案だ。ゲームバランスが大きく崩壊するため、さすがのつむぎも実行するかは迷っているし、主催者側が敢えて空けた穴か単なる見落としかも読み切れなかったので、現状保留しているけれど。


(まぁ、『警察』を減らさねばならないほど、まだ追い詰められてはいないからな。〝遊撃隊〟の役目はあくまで、派手に動くことで『警察』の何割かを〝見える場所〟に留めておくことだ)


 つむぎの考える作戦を実行するには、『警察』の動きをある程度把握しておく必要があった。概ねは〝特別教室B棟〟の資料室から見れば分かるが、あからさまに鬼ごっこしているエリアがあれば、『警察』の役割上、より分かりやすくならざるを得ないだろう。〝遊撃隊〟の努力のおかげで、特に神出鬼没な生徒会長以外の『警察』のマーキングは完了した。


 ――いよいよ、作戦の最終段階、〝追い込み〟の開始である。


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