第90話 黒鋼の死神
王都の静寂
グレイヴとの死闘を終えた玲華は、疲れた様子で剣を鞘に収めた。
「玲華さん、本当に……すごかったです」
雪奈が優しく微笑みながら、そっと彼女の肩に触れた。
「ふん……当然よ」
玲華は強がりながらも、その頬には汗が伝っている。
ハーブはじっと玲華を見つめていた。
(玲華の成長……俺の想像以上だな)
しかし、安堵の空気が漂う中——
「……この程度で満足するなよ」
冷たい声が響いた。
一同が振り返ると、暗闇の中から一人の男が現れた。
漆黒の鎧に身を包み、大剣を肩に担いだ巨漢。
その瞳は、まるで死そのものを宿しているかのようだった。
「黒鋼の死神……バルムート」
玲華が緊張した声で名を呟く。
「貴様らがグレイヴを退けたと聞いてな……どれほどのものか、確かめに来た」
バルムートの声は低く響き、周囲の空気が一瞬にして重くなる。
「こいつが……黒鋼会の最高戦力か」
ハーブは剣を構えた。
「お前たちの旅路もここで終わりだ」
バルムートは静かに大剣を構える。
その刃は漆黒に染まり、禍々しいオーラを放っていた。
「退けるなら、やってみろ」
⸻
死神の一撃
——ズドンッ!!
一瞬のうちに、バルムートの剣が振り下ろされた。
ハーブは間一髪でかわすが、衝撃波で背後の壁が粉々に砕け散る。
「なっ……!?」
雪奈が声を震わせる。
「この威力……ただの人間じゃない!」
玲華が剣を抜き、バルムートに立ち向かう。
「はあああっ!!」
玲華の剣が閃く。
しかし——
ガキィィィン!!
バルムートは片手でその一撃を受け止めた。
「貴様……まだまだだな」
「くっ……!」
玲華は歯を食いしばる。
「玲華!」
ハーブがすかさず援護に入る。
——ギィィン!!
剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。
だが、バルムートの力は圧倒的だった。
「どうした? この程度か?」
バルムートが口元を歪める。
「このままでは……!」
雪奈が怯える中、ハーブは剣を強く握った。
「……俺が奴の隙を作る。玲華、雪奈……援護を頼む」
玲華が力強く頷く。
「分かった!」
雪奈は不安げに杖を握るが、ハーブを信じて小さく頷いた。
⸻
死神の隙
ハーブが猛然と突撃する。
「うおおおっ!!」
バルムートはその剣を正面から受け止める。
——ギィィン!!
火花が散り、二人の剣が激しくぶつかり合う。
「……なるほど」
バルムートの瞳に、一瞬の興味が宿る。
「お前が噂の異世界の剣士か」
「そんなことはどうでもいい……俺は、仲間を守るためにここにいるだけだ!」
ハーブは力強く言い放つ。
「フッ……ならば、その覚悟を見せてみろ!」
バルムートの大剣が唸りを上げる。
しかし——
「今よ!」
玲華が背後から突撃し、雪奈の結界が光を放つ。
「くらえっ!!」
玲華の剣がバルムートの脇腹を切り裂いた。
「ぐっ……!!」
バルムートの巨体がわずかに揺らぐ。
「やったか!?」
雪奈が声を上げるが——
「……フッ」
バルムートはゆっくりと振り向き、不敵に笑った。
「面白い……貴様ら、なかなかやるな」
しかし、バルムートの傷は浅く、まだ余裕を見せていた。
「こいつ……本当に人間か?」
玲華が驚愕の声を上げる。
ハーブは冷静に剣を握り直した。
「まだ終わっていない……ここで奴を倒す!」
⸻
次回予告
死神のごとき強敵、バルムート。
その圧倒的な力の前に、ハーブたちはどう立ち向かうのか!?
次回、第91話「王都騎士団、決起」
王都の命運を懸けた激闘が始まる——!!
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