第78話 紫の誓約
戦いの余韻
夜の闇が静けさを取り戻していた。
ゼスティアが去り、玲華の紫炎もすでに消えている。
「玲華、大丈夫か?」
ハーブが駆け寄り、玲華の肩を支えた。
「ええ……少し、力を使いすぎただけ……」
玲華の額には汗が滲み、肩で息をしていた。
紫炎——それは玲華自身も知らなかった新たな力だった。
「今のは……一体?」
雪奈が心配そうに玲華を見つめる。
玲華は少し目を伏せ、手のひらを見つめながら言った。
「私にも、よくわからない……でも……」
剣を握りしめる。
「この力で、私はもっと強くなれる気がする」
玲華の瞳には、確かな決意が宿っていた。
紫炎の正体
翌日——
玲華は剣道場にいた。
昨夜の戦いで目覚めた紫炎の力。
それが何なのかを知るため、稽古場で剣を振るっていた。
——だが、炎は現れなかった。
(……どうして?)
玲華は何度も剣を振るうが、昨夜のような紫炎は宿らない。
「くっ……!」
焦りが胸を締めつける。
あの時は確かに力が湧き上がったのに——なぜ今は?
「……」
「焦るな、玲華」
不意に声がした。
振り向くと、そこには師範が立っていた。
玲華の剣の師であり、かつて黒鋼会と戦ったこともある剣士だ。
「お前の剣は、昨夜の戦いで大きく変化した」
師範は道場の中心へ歩み寄り、玲華を見据えた。
「だが、力を得ただけでは意味がない。制御できずに暴走すれば、それは剣士としての死を意味する」
玲華は唇を噛みしめた。
「では、どうすれば……」
師範はゆっくりと頷いた。
「答えは、お前の中にある」
「……?」
「お前の剣は何のためにある?」
玲華はその問いを胸の中で反芻する。
「……私は……」
目を閉じる。
昨夜の戦い——ゼスティアとの死闘。
紫炎が燃え上がった瞬間の感覚。
(私は……みんなを守るために戦っていた……)
その思いが——炎を灯した。
玲華がゆっくりと剣を構えた、その時——
——ボッ……!
小さな紫炎が、玲華の剣の先端に揺らめいた。
「……!」
「そうだ。その炎は、お前の”誓い”が形になったもの」
師範は微笑みながら言う。
「焦るな、玲華。お前の剣が迷わなければ、紫炎は必ず応えてくれる」
玲華は深く頷いた。
(この炎は……私自身なんだ)
そして——
玲華は、紫炎の剣士として新たな一歩を踏み出した。
黒鋼会の動き
同じ頃——
黒鋼会の本拠地では、新たな計画が動き出していた。
「ゼスティアが負けた、か……」
闇の中で、一人の男が呟く。
その男の名はヴァルド。
黒鋼会の幹部の一人であり、“影狼”と呼ばれる男だった。
「玲華の紫炎……興味深いな」
ヴァルドは笑みを浮かべながら、部下に命じた。
「玲華・アーデルハイトを捕えろ。あの力、我々のものにする」
静かに——しかし確実に、新たな危機が迫っていた。
次回予告
玲華の紫炎の力が覚醒した。
しかし、その力を狙う黒鋼会の動きが激しさを増す。
新たな敵、ヴァルドが玲華を狙い動き出す中、ハーブたちはどう立ち向かうのか?
次回、第79話「影狼の牙」
黒鋼会の恐るべき狩人が、彼らの前に現れる——!
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