第72話 剣士の覚悟
ヴァルターの計画
学院の食堂での出会いから数時間後。
ハーブ、玲華、雪奈、そして新たな転校生ヴァルターは、学院の屋上に集まっていた。
「さて、詳しく話そうか」
ヴァルターはそう言って腕を組み、夜風を受けながら語り始める。
「黒鋼会は”均衡の鍵”である雪奈を利用し、異世界との境界を破壊しようとしている。奴らはそれを”開門の儀”と呼んでいる」
玲華が眉をひそめる。
「……開門の儀? 具体的には何をするつもりなの?」
「この世界と異世界の間には、“門”と呼ばれる歪みが存在している。普段は閉じられているが、一定の条件が揃えば開く。その条件の一つが、“均衡の鍵”の存在だ」
ヴァルターの視線が雪奈に向けられる。
「つまり、雪奈が”扉を開く鍵”になってしまうということか……?」
ハーブが鋭く尋ねると、ヴァルターは頷いた。
「その通り。そして、黒鋼会がその儀式を行うのは——三日後の満月の夜だ」
雪奈の表情が強張る。
「三日後……!」
玲華が腕を組んで考え込む。
「黒鋼会はその儀式のために、何か準備を進めているはずね。こちらが先手を打たないと、完全に不利になる……」
ヴァルターは微笑みながら、ハーブの方を見つめた。
「そこで、君の出番というわけだ。“最強の剣士”である君の力で、黒鋼会の計画を阻止してほしい」
ハーブは目を細める。
(こいつの言うことは理にかなっている……が、信用しきるのは早い)
「……俺に指図する気か?」
ヴァルターは肩をすくめる。
「とんでもない。ただ、君ほどの実力者なら、ここで動くべきだと”確信している”だけさ」
玲華がハーブに視線を向ける。
「どうする? こちらから動くなら、計画を立てなきゃならないわ」
ハーブは静かに目を閉じ、思考を巡らせる。
(……三日後の満月の夜。そこが奴らの狙いなら、逆にその前に叩くべきだ)
目を開き、ハーブは決意を固めた。
「——二日後の夜に、黒鋼会の拠点を急襲する」
玲華が驚いた顔をする。
「二日後!? そんなに早く?」
「時間を与えれば、それだけ奴らは準備を整えてしまう。なら、こちらが先に奇襲を仕掛けるしかない」
ヴァルターは満足そうに頷いた。
「いい判断だ。迅速かつ強力な一撃で、奴らを潰す……それしかないな」
雪奈は不安げな表情を浮かべる。
「……でも、本当に戦えるのでしょうか?」
「戦えるさ」
ハーブは迷いなく答えた。
「……俺が、お前を守る」
雪奈は驚き、そして少しだけ頬を赤らめながら小さく頷いた。
玲華も微笑む。
「なら、作戦を詰めましょう。まずは黒鋼会の拠点の情報収集ね」
ヴァルターは薄く笑いながら言った。
「その点は任せてくれ。奴らのアジトの場所なら、すでに把握している」
作戦開始
翌日。
ハーブたちはヴァルターの案内で、黒鋼会の拠点を偵察するために動き出した。
目的地は、学院の外れにある廃工場。
「ここか……」
ハーブは鋭い目で、目の前の建物を見つめる。
「黒鋼会の拠点は表向きには廃墟だが、内部には結界が張られている。そして、奴らの幹部がこの中にいるはずだ」
ヴァルターが低い声で説明する。
玲華が双眼鏡で中を覗き込む。
「見張りがいるわね。二人……いや、四人」
ハーブは剣を抜き、静かに構える。
「……奇襲をかける。玲華、雪奈は後方で援護。ヴァルターは俺と前に出ろ」
ヴァルターは嬉しそうに笑う。
「ふっ、ようやく剣を交えられるな。いいだろう、ついていく」
そして、ハーブは静かに気配を殺し、敵へと向かっていった——。
次回予告
黒鋼会の拠点への奇襲作戦、開始!
待ち受けるのは強敵か、それとも罠か……!?
次回、第73話「廃工場の死闘」
剣士たちの決戦が幕を開ける!
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