第71話 異端の王子
新たなる影
黒鋼会の襲撃を退けた翌朝。
学院の空気は一見平穏そのものだったが、ハーブたちの間には緊張が走っていた。
(……昨夜の襲撃、ただの威嚇じゃない。奴らは雪奈の”均衡の鍵”としての力を確認しに来た……)
ハーブは食堂で食事を取りながら、無意識に剣の柄に手を当てていた。
玲華が隣で腕を組み、難しい表情を浮かべる。
「黒鋼会の連中が妙に慎重だったのが気になるわね。まるで、本番に向けて”準備”を進めてるような感じだった」
雪奈は不安げに俯く。
「私……やっぱり、狙われてるんですね……」
ハーブは静かに頷いた。
「だが、俺たちはそう簡単にやられはしない。学院の警備を強化するのと、玲華、お前は生徒会に頼んで情報収集を続けてくれ」
玲華は自信ありげに頷く。
「了解。こういう情報戦は私の得意分野よ」
その時——
ガラッ!
食堂の扉が勢いよく開き、一人の生徒が入ってきた。
銀髪の青年。鋭い紫色の瞳を持ち、気品と威圧感を兼ね備えた存在。
学院の制服を着ているが、その雰囲気は周囲とまるで違った。
「……あれが、転校生?」
玲華が小さく呟く。
ハーブも彼を一目見て、直感的に分かった。
(……只者じゃない)
青年はゆっくりとハーブたちの方へ歩いてくると、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「やあ、君が”最強”の剣士か」
異端の王子
食堂のざわめきを無視しながら、青年はハーブの前に立つ。
「初めまして、私はヴァルター・クロイツ。今日からこの学院に転入してきた」
玲華が目を細め、警戒の色を浮かべる。
「……その名前、聞いたことがないわね」
ヴァルターは肩をすくめる。
「当然だ。私は異世界から来た”王子”だからな」
雪奈が息をのむ。
「異世界……!? ということは……!」
ヴァルターはにこやかに笑いながら、雪奈に視線を向ける。
「君が”均衡の鍵”……“アストレイア王家”の血を引く者、雪奈・アストレイアだね?」
ハーブは即座に剣に手をかけ、ヴァルターを睨んだ。
「……目的はなんだ?」
ヴァルターは微笑みながら、椅子を引いて座る。
「落ち着け、敵じゃない。むしろ、私は君たちに”協力”しに来たんだ」
玲華が疑いの目を向ける。
「協力? どんな風に?」
ヴァルターは腕を組みながら答える。
「黒鋼会は、君たちの敵だろう? なら、目的は一致している」
「……お前も黒鋼会と敵対しているのか?」
ハーブが問いかけると、ヴァルターの目が一瞬だけ鋭くなった。
「“奴ら”は、私の故郷も滅ぼしたからな」
「……!」
雪奈が驚いた顔をする。
「滅ぼされた……?」
ヴァルターは低い声で続ける。
「私は元々、異世界にある小国の王子だった。だが黒鋼会の手により、国は焼かれ、家族は皆殺しにされた。生き延びたのは、私一人だけだ」
その声には、静かな怒りが込められていた。
「……だから、私は奴らを潰すために力を蓄えてきた。そして、ついに奴らの”本当の目的”を知った」
「黒鋼会の”本当の目的”……?」
玲華が身を乗り出す。
ヴァルターは頷いた。
「黒鋼会は、“均衡の鍵”を使い、異世界とこの世界の境界を完全に壊そうとしている。そして、その先にあるのは——“真なる王の復活”だ」
雪奈が震える。
「“真なる王”……!?」
ヴァルターは真剣な目でハーブを見つめた。
「君たちも気づいているはずだ。この戦いは、単なる”剣士たちの争い”じゃない。世界そのものの均衡がかかった戦いだということを」
ハーブはヴァルターを見つめ返す。
(こいつ……敵ではなさそうだが、信用するにはまだ早い)
「……それで、お前は俺たちにどう協力するつもりなんだ?」
ヴァルターは微笑んだ。
「簡単さ。黒鋼会が動く前に、こちらから”攻める”んだよ」
玲華が驚いた顔をする。
「こちらから……!?」
「そうだ。奴らが完全に準備を整える前に、“均衡の鍵”を狙う計画を潰す。そして、それができるのは——“最強の剣士”である君しかいない」
ハーブはヴァルターの言葉を静かに噛み締める。
(確かに、黒鋼会が動き出した以上、こちらから仕掛けるのも一つの手だ……)
だが、ヴァルターの真意がまだ見えない。
「……もう少し詳しく話を聞かせてもらおうか」
ヴァルターは満足そうに頷いた。
「いいだろう。“戦いの準備”をしよう、ハーブ・グランディール」
次回予告
突如現れた異世界の王子・ヴァルター。
彼の目的は本当に”黒鋼会の打倒”なのか?
そして、“真なる王”とは一体……!?
次回、第72話「剣士の覚悟」
ハーブ、新たな決断を下す——!
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