第6話 仕掛けられた罠
放課後。白陽高校の校舎を出たハーブと雪奈は、並んで歩いていた。
「今日も……お疲れさまでした、ハーブさん」
「お前もな」
いつものように丁寧な口調で話す雪奈に、ハーブは軽く頷いた。
「その……また、明日もお弁当を作ってきますので……」
雪奈は視線を落としながら、少し恥ずかしそうに言う。
「構わん。楽しみにしている」
「……! は、はいっ!」
雪奈は嬉しそうに微笑み、そわそわとした様子を見せる。その様子を見ながら、ハーブはふと考えた。
この世界の食事にも慣れてきたが、雪奈の作るものは特に美味いな。
そんなことを考えていると、ふと違和感を覚えた。
視線?
人の気配に敏感なハーブは、背後から誰かに見られていることに気づく。しかし、それを気にする素振りを見せることなく、歩みを進めた。
「雪奈、お前の家はどこだ?」
「えっと……この角を曲がった先にあります」
「そうか。では、ここで別れるとしよう」
「はい……では、また明日……!」
雪奈がぺこりと頭を下げ、家へと向かっていくのを見届けると、ハーブはゆっくりと振り返った。
「……そろそろ姿を見せたらどうだ?」
すると、物陰から数人の男たちが姿を現した。先頭に立つのは、校内で気の荒い連中をまとめている倉田真司だった。
「へぇ、さすがだな。俺たちの気配に気づいてたってわけか?」
真司はニヤリと笑いながらハーブを見つめる。その背後には、同じく荒っぽそうな男たちが並んでいた。
「用があるなら、手短に頼む」
「おいおい、そんなに警戒するなって。ただの挨拶だよ」
「……そうか」
ハーブは冷静に彼らを見渡す。その立ち振る舞いから、ただの挨拶では済まないことは明らかだった。
「お前さぁ、転校してきたばっかりのくせに、ずいぶんと目立ってるよな?」
「俺にそのつもりはない」
「ははっ、そうかよ。でもな、それが気に食わないって奴もいるんだよ」
真司が顎をしゃくると、周囲の男たちがじりじりと間合いを詰めてくる。
なるほど、これが目的か。
ハーブは冷静に状況を把握した。どうやら、彼らは何かしらの理由をつけて自分に喧嘩を売りたいらしい。
「どうするよ? 謝るなら、今のうちだぜ?」
真司が挑発するように言うが、ハーブは微動だにしない。
「……時間の無駄だな」
そう呟くと、ハーブはくるりと背を向けた。
「おい、待てよ」
「待たない」
即答するハーブ。しかし、その瞬間——
「チッ、そう来るかよ。……おい、お前ら」
真司が合図をすると、背後の男たちが一斉に動き出した。
やはり……来るか。
だが、その時——
「……やめてください!」
澄んだ声が響く。驚いて振り返ると、そこには息を切らした雪奈が立っていた。
「……雪奈?」
「どうして……どうしてこんなことをするんですか?」
真司たちに向かって、雪奈は強い口調で問いかける。
「お、おいおい、なんでコイツがここに……?」
仲間の一人が動揺しながら言う。どうやら、彼らも雪奈が現れるとは思っていなかったようだ。
「ハーブさんは何も悪いことをしていません……! なのに、どうして……!」
雪奈の訴えに、真司は苦笑いしながら肩をすくめる。
「いや、別に大したことじゃねぇよ。ただの挨拶だって言っただろ?」
「挨拶なら、もっと穏やかにしてください……!」
「チッ……お前がそこまで言うなら、今日は勘弁してやるか」
真司は舌打ちをすると、手を振りながら仲間たちに合図した。
「行くぞ、お前ら」
そう言って、彼らはその場を立ち去っていく。
「……助かったな」
ハーブは静かに雪奈を見つめた。彼女は胸を押さえながら、息を整えている。
「……すみません、勝手についてきてしまって……でも、ハーブさんが心配で……」
「いや、礼を言う。助かった」
「えっ……?」
予想外の言葉に、雪奈は驚いた顔をする。
「お前がいなければ、無駄な衝突になっていたかもしれない。結果として、回避できたのなら、それでいい」
「……よかった……」
雪奈は安堵の表情を浮かべた。
「だが、次は危険を冒さず、俺を信じろ」
「……はい」
雪奈は少し照れくさそうに微笑みながら、ゆっくりと頷いた。
こうして、ハーブは初めての学園内のトラブルを無事に回避したのだった。
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