第51話 剣聖の覚醒
限界の向こう側
漆黒の空間で、ハーブとヴァルターの戦いは熾烈を極めていた。
ヴァルターの体から溢れ出る闇は、まるで生き物のように蠢き、空間そのものを飲み込もうとしている。
「ふふ……いいぞ、その目だ」
ヴァルターは歪んだ笑みを浮かべる。
「お前の“本質”が目覚めようとしている……」
玲華は息を呑む。
「ハーブ……」
ミラが焦りの声を上げる。
「まずいわ、このままだとハーブまで飲み込まれる……!」
雪奈が震える声で叫ぶ。
「ハーブさん、戻ってきて……!」
しかし、ハーブは静かに剣を握りしめたまま、前を向いていた。
「……俺は、戻らない」
その言葉に、玲華たちは息を呑む。
「お前が何者かは知らない……だが、仲間を守るためなら、何度でも立ち上がるだけだ」
剣が青白く輝き始める。
「お前の闇がどれだけ深かろうと、俺は貫く」
ヴァルターの目が細まる。
「いいだろう……来い、剣聖」
覚醒の一閃
ヴァルターが闇の刃を無数に生み出し、ハーブへと放つ。
——ズバッ! ズバッ!
空間を切り裂く闇の斬撃。
だが、ハーブの動きはまるで別人のようだった。
「……遅い」
彼はすべての斬撃を見切り、寸分違わず弾き返していく。
ガキィィン!!
玲華が息を呑む。
「何なの、今の動き……!?」
ミラが震えた声で答える。
「……完全に、次元が違う……!」
雪奈は祈るように手を握りしめた。
「ハーブさん……!」
ヴァルターがさらに闇を凝縮させた巨大な剣を召喚する。
「ならば、これで終わりだ」
“虚無断滅”
漆黒の巨大な斬撃が、ハーブを飲み込もうと迫る。
しかし——
ハーブは一歩踏み出した。
「終わるのは、お前の方だ」
剣が、さらに輝きを増す。
青白い光が、空間を裂いた。
「——“蒼閃・零式”」
決着
シュバァァァァン!!
ハーブの剣がヴァルターの闇を一閃した。
ドォォォォンッ!!
爆発的な衝撃が空間を揺るがし、闇が浄化されていく。
ヴァルターの身体が砕け、ゆっくりと崩れ落ちた。
「……フフ……やはり……」
彼は薄く笑いながら、最後の言葉を残す。
「お前は、“覚醒の器”だったか……」
そう言い残し、ヴァルターの体は闇へと消えた。
帰還と安堵
空間が元に戻り、ハーブたちは元いた城塞のホールへと戻ってきた。
玲華が安堵のため息をつく。
「……終わったの?」
ミラが肩を落とし、ぐったりと座り込む。
「ええ……なんとか、ね」
雪奈は涙目でハーブに駆け寄る。
「ハーブさん! 大丈夫ですか!?」
ハーブは剣を納め、微笑んだ。
「ああ……無事だ」
玲華が近づき、ジト目でハーブを見つめる。
「……なんなのよ、あの無茶な戦い方は。こっちは心臓止まるかと思ったわ」
ミラも少し拗ねた表情を浮かべる。
「ほんと、もう少し心配させない戦い方できないの?」
ハーブは少しだけ困った顔をしながら答えた。
「……すまない」
雪奈はほっとしたように笑う。
「でも……本当に無事でよかったです」
玲華とミラは顔を見合わせ、小さく肩をすくめた。
「ま、無事ならいっか」
「そうね……ご褒美として、今度は私たちが看病してあげるわ」
ハーブが首を傾げる。
「いや、もう回復しているが……」
玲華とミラが揃ってハーブの腕を掴む。
「いいから!」
「たっぷり甘えさせてもらうわよ♪」
雪奈もそっとハーブの袖を握りしめる。
「私も……いいですか?」
ハーブは三人の視線に押され、静かに頷いた。
「……ああ、好きにしてくれ」
こうして、闇の試練を超えた彼らは束の間の休息を取ることになった。
しかし——その影で、さらなる脅威が動き始めていることを、まだ誰も知らなかった。
次回予告
ヴァルターとの激闘を終えたハーブたち。
しかし、異世界と現実の境界がさらに薄れ始める。
次回、第52話「崩れゆく境界」
新たな敵の影が、白陽高校を覆い始める——!
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