第42話 記憶の扉
深紅の時計塔、激化する闇の戦い
闇の波動が渦巻く塔の中で、ハーブは剣を構え直した。
目の前の男——シグヴァルドの傷は、まるで時間を巻き戻すかのように消えていく。
「……回復した、だと?」
シグヴァルドは静かに剣を振り、血の跡すら消えた刃を見下ろす。
「闇の加護を受けた者にとって、傷とはただの“過程”に過ぎん」
玲華が悔しげに歯を食いしばる。
「そんな……どれだけ斬っても無駄ってこと?」
ミラが分析する。
「いや……恐らく完全な不死ではないはず。何か弱点があるはずよ」
ハーブは冷静にシグヴァルドを見据えた。
「……なら、弱点を見つけるしかないな」
——シュン!
またしてもシグヴァルドの姿が消える。
「くる!」
ハーブは直感で剣を振る——
ガキィン!!
狙いは正確だった。
シグヴァルドの剣と激突し、火花が散る。
「ほう……反応が速くなったな」
「お前の動きにも慣れてきた」
ハーブは力を込め、シグヴァルドを弾き返す。
その刹那——
「——“剣閃・零式”!!」
剣から放たれる衝撃波が、闇を切り裂いた。
ドンッ!!
シグヴァルドの身体が吹き飛ぶ。
「やった……!?」
玲華が声を上げるが——
——ズズズ……
吹き飛ばされたシグヴァルドの身体が、黒い霧となって消えていく。
「……!」
次の瞬間——
「甘い」
ハーブの背後から、冷たい声が響く。
ザシュッ!!
「っ……!!」
鋭い斬撃が、ハーブの背中を裂いた。
「ハーブ!」
雪奈の悲痛な声が響く。
ハーブは膝をつき、肩で息をする。
「……くそっ……!」
シグヴァルドはゆっくりと歩み寄る。
「理解したか? どれだけ足掻こうとも、お前が我に届くことはない」
ハーブは歯を食いしばりながら、震える腕で剣を支えた。
「まだ……終わってない」
——ズズズ……!
しかし、その時だった。
塔全体が軋み、闇がさらに濃くなる。
「……これは?」
玲華が警戒する。
ミラが驚愕の声を上げる。
「まさか……空間が歪んでいる!?」
シグヴァルドが冷笑した。
「ようやく開いたか……お前の記憶の扉が」
ハーブの意識が、急激に引き込まれるような感覚に襲われた。
「……っ!!」
——視界が闇に染まる。
記憶の中の世界
気がつくと——そこは、見知らぬ世界だった。
青白い月が浮かぶ夜空。
無数の剣が突き刺さった荒野。
その中心に、一人の男が立っていた。
「これは……?」
ハーブが呆然とする中、男が振り返る。
「……お前は」
それは——
自分とそっくりな顔をした男だった。
しかし、彼の瞳は冷たく、威厳に満ちていた。
「お前が……“本来の私”なのか?」
ハーブが問いかける。
男は静かに頷いた。
「お前は忘れている。お前が何者だったのかを」
ハーブの心がざわつく。
「……私はハーブだ。それ以外の何者でもない」
男は微かに笑った。
「ならば、問おう。お前の“剣”は何のためにある?」
ハーブは答えようとした——
だが、言葉が出なかった。
何のために剣を握っているのか——その答えが、出てこない。
「……私は……」
男が言った。
「お前が本当に取り戻すべきもの……それは“力”ではなく、“誓い”だ」
——ズズズ……!
世界が歪み、視界が再び闇に染まる。
深紅の時計塔、再び
「っ!!」
ハーブは息を切らしながら、現実に戻った。
玲華が心配そうに覗き込む。
「大丈夫!?」
「……ああ」
ハーブはゆっくりと立ち上がった。
シグヴァルドは満足そうに微笑む。
「思い出しつつあるようだな」
ハーブは剣を握り直す。
「まだ、完全には……だが」
しかし、彼の瞳には、今までにない光が宿っていた。
「お前の目的はなんだ?」
シグヴァルドは剣を構えたまま、静かに告げる。
「お前が本当に“目覚める”こと。それが、我の使命だ」
玲華が驚愕する。
「どういうこと……?」
シグヴァルドは答えなかった。
ただ、次の瞬間——
——シュン!
彼の姿が、再び闇に溶け込む。
ハーブは目を閉じ、深く息を吸う。
「……剣は、誓いのために」
その瞬間——
ハーブの剣が、淡く光を放ち始めた。
玲華とミラが目を見開く。
「……何?」
雪奈が呆然と呟く。
「ハーブさんの剣が……」
“真の力”が、今まさに目覚めようとしていた——。
次回予告
シグヴァルドとの戦いは最終局面へ。
目覚めるハーブの“真の力”とは……?
そして、“誓い”とは何なのか?
次回——
「剣に誓いを」
運命の戦いが、今決着する——。
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