第40話 時計塔の秘密
深紅の時計塔へ
「……ここが、深紅の時計塔か」
夜の静寂に包まれた旧校舎の一角に、そびえ立つ古びた時計塔があった。
長年放置されていたせいか、外壁は苔と蔦に覆われており、窓ガラスの一部はひび割れている。
ハーブは慎重に周囲を見渡した。
「誰もいない……が、確実に何かがあるな」
玲華が不安そうに言う。
「本当にここで何か分かるの?」
「それを確かめるしかない」
ハーブは一歩踏み出し、扉に手をかけた。
ギィ……
重たい音を立てながら、扉がゆっくりと開く。
中はほこりっぽく、長年人が出入りしていないことがうかがえた。
「気をつけて……」
ミラが警戒しながら後に続く。
玲華と雪奈も、緊張した面持ちで中へと入った。
謎の手記
塔の内部には、古びた家具や机が雑然と置かれていた。
「……これは?」
雪奈が机の上に置かれた古い手記を手に取る。
ページをめくると、そこにはびっしりと何かが書かれていた。
玲華が覗き込む。
「なにこれ……?」
ミラが指をさす。
「見て、ここ——」
ハーブも手記を覗き込み、ある単語を目にして息をのむ。
《エリュシオン》
「……エリュシオン?」
雪奈が首を傾げる。
「異世界の伝説に登場する“楽園”……でも、どうしてこんなところに?」
「分からない。だが……これは偶然じゃないな」
ハーブは手記をめくる。
そこには、驚くべきことが記されていた。
『エリュシオンの守護者は記憶を封じ、転生する』
「……っ!」
ハーブの脳裏に、かすかな映像がよぎる。
——光に包まれた世界。
——誰かの悲しげな声。
——そして、自分の名を呼ぶ少女——
「……ぐっ」
突然の頭痛に襲われ、ハーブは膝をついた。
「ハーブ!?」
玲華が支える。
ミラが目を細める。
「記憶の断片が戻り始めているのね……」
「……かもしれない」
ハーブはゆっくりと息を整え、立ち上がった。
「……ここには、まだ何かあるはずだ」
暗闇の訪問者
その時——
カツ……カツ……
誰かが階段を登ってくる足音が響いた。
「……誰か来る!」
玲華が構える。
ハーブも剣を抜いた。
そして——
闇の中から、一人の男が現れた。
黒い外套をまとい、長身で鋭い目つきをしている。
「やはり、来たか」
低く響く声。
ハーブは警戒を強める。
「お前は……誰だ?」
男は薄く笑い、静かに名乗った。
「私はシグヴァルド。お前の記憶と密接に関わる者だ」
「……俺の記憶と?」
シグヴァルドは手を差し伸べる。
「真実を知りたければ、私と来い」
玲華が剣を構えた。
「ふざけないで! そんな怪しいやつについていくわけないでしょ!」
ミラも冷静に分析する。
「あなたが何者なのか、もう少し説明してもらおうかしら?」
だが、シグヴァルドは答えず、ハーブをじっと見つめる。
「お前が選ぶのだ。自分の過去を知るか、知らぬまま生きるか——」
ハーブは迷うことなく剣を構えた。
「俺の答えは決まってる」
「ほう……」
シグヴァルドは薄く笑うと、手をかざした。
次の瞬間——
ゴォォォッ!
闇の波動が彼の手から放たれ、塔の中を覆い尽くした。
「くっ……!」
玲華が吹き飛ばされそうになり、ミラが雪奈を庇う。
「ハーブさん……!」
雪奈が叫ぶ。
「行くぞ」
ハーブは剣を握りしめ、シグヴァルドへと突撃した——!
次回予告
謎の男、シグヴァルドとの戦いが始まる。
彼は何者なのか? そして、ハーブの記憶の真実とは?
次回、第41話「闇の剣士」
新たな戦いの幕が開く——!
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