第4話 新たな日常と波乱の予兆
朝日が差し込む部屋の中、ハーブは静かに目を覚ました。異世界から現代に来て数日、彼はすでにこの世界の生活に順応しつつあった。
「……随分と慣れてきたな。」
服装も白陽高校の制服に着替え、鏡の前で軽く身なりを整える。異世界では決して着ることのなかったブレザーとネクタイ――動きにくさはあるが、日常に溶け込むためには必要なことだ。
朝食を簡単に済ませ、アパートを出ると、ふと視線を感じた。振り返ると、そこには雪奈がいた。
「お、おはようございます……ハーブさん。」
「雪奈か。おはよう。」
少し頬を染めながら、もじもじと指を弄ぶ雪奈。彼女はどうやら同じアパートに住んでいるようで、毎朝こうして顔を合わせるのが日課になりつつあった。
「えっと……今日も、一緒に行きますか?」
「そうだな。道も覚えてきたが、案内してもらえるなら助かる。」
ハーブは特に気にすることなく答えたが、雪奈はどこか嬉しそうに頷いた。
学校への道中、雪奈は昨日のことを思い出していた。ハーブが見せた、あの圧倒的な実力。そして、迷惑をかけた自分を気遣うような態度。
(やっぱり……すごい人。)
無意識にハーブをちらちらと横目で見るが、当の本人はそんな彼女の視線には一切気づかず、前を歩き続ける。雪奈は小さく息を吐いた。
(……こういうところ、ちょっと鈍感なのかも。)
彼女がそんなことを思っていると、不意にハーブが足を止めた。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや……。」
周囲を見渡す。特に変わったことはない――はずなのに、どこか空気が違う。
「気のせいか。」
軽く首を振り、再び歩き出す。
雪奈は不思議そうにしていたが、ハーブの表情には一瞬、警戒の色が浮かんでいた。
◆
昼休み。ハーブは屋上で弁当を広げていた。雪奈に勧められた購買のパンも悪くないが、基本的には手作りの弁当を用意している。
「……む。」
ふと視線を感じた。
「ハーブさん……一緒に食べても、いいですか?」
そこには、雪奈が立っていた。
「ああ、構わない。」
「よ、よかった……。」
雪奈はそっとハーブの隣に座り、自分の弁当を開けた。そこには、見た目にも美しい手作りのおかずが詰まっている。
「手作りか。」
「は、はい……料理は、好きで……。」
「そうか。」
ハーブは興味深そうに彼女の弁当を見た後、自分の弁当の卵焼きを一つ取り、雪奈の弁当箱の端に置いた。
「?」
「交換だ。味を見てみるといい。」
雪奈は一瞬驚いたが、すぐに微笑んだ。
「……ありがとうございます。」
そうして二人は静かに昼食をとった。
◆
放課後、ハーブが帰ろうとすると、廊下の向こうから数人の男子が歩いてくるのが見えた。
(……来たか。)
彼らは以前からハーブを気に入らない様子を見せていた不良グループの一部。正面から近づいてくる彼らを見ても、ハーブは特に動揺することなく立ち止まる。
「よお、新入り。」
「お前、調子乗ってるんじゃねぇの?」
挑発的な言葉。ハーブは彼らをじっと見つめる。
(……面倒だな。)
絡まれること自体は予想していた。だが、今ここで騒ぎを起こすのは得策ではない。
「別に、お前たちと争うつもりはない。」
「はっ、何言ってんだ? てめぇが強いって噂、もう広がってんだぜ? 俺らにも実力見せてくれよ。」
「興味はない。」
ハーブが背を向けようとすると、不良の一人が彼の肩を掴んだ。
「おい、逃げんなよ――!」
次の瞬間、不良の腕が勢いよく振り払われた。
「っ……!?」
ハーブは無駄のない動きで、不良の手を最小限の力で振り解いた。まるで何もなかったかのように。
「っ……くそっ、覚えてろよ!」
不良たちは捨て台詞を残し、その場を去っていった。
(……まだ、面倒ごとは続きそうだな。)
ハーブは静かに息を吐き、再び歩き出した。
こうして、彼の平穏とは言えない学園生活が、徐々に波乱の色を帯び始めていた――。
読んでくださりありがとうございます!
更新頻度ですがなるべく毎日11時頃と22時頃の2話投稿を目指します!
感想など書いていただくと今後の励みになるのでどんどんコメントしてください!