第31話 覚醒の兆し
疑惑の対峙
翌日、放課後。
ハーブ、玲華、雪奈の三人は、学園の裏手にある森へと足を踏み入れていた。
「……本当にここでいいの?」
玲華が眉をひそめながら確認する。
「ミラは放課後、よくここにいる。誰かと会っている可能性が高い」
ハーブが短く答えると、玲華は納得したように頷いた。
「……昨日、黒鋼会と接触していたのを見たのよね?」
雪奈が不安そうに尋ねると、玲華は真剣な表情で応じた。
「ええ。はっきりと顔までは見えなかったけど……確実に、あの黒服の連中だったわ」
「……なら、ミラはやはり黒鋼会と何らかの関係があるということか」
ハーブは腕を組みながら呟く。
「……彼女の目的が、私たちに敵対するものかどうかが問題ですね……」
雪奈は静かに言った。
ミラが敵ならば、戦わねばならない。
だが、彼女には別の目的があるようにも見える——。
「とにかく、確かめるしかないな」
ハーブが前を向くと、ちょうど森の奥から足音が聞こえた。
「……誰か来る」
三人が身を潜めると、そこに現れたのは——ミラだった。
彼女は誰かと話している。
「——状況は?」
「順調よ。ハーブはまだ何も気づいていない」
ミラの言葉に、ハーブたちは息を呑んだ。
「……なら、計画通りに進めるぞ」
低い声が響く。
黒鋼会の構成員だ。
「了解。でも、私のやり方で進めるわ」
ミラは余裕の表情で言い放つ。
「……フン、好きにしろ。ただし、失敗は許されん」
男はそう言い残し、森の奥へと消えていった。
ミラは小さく息をつき、踵を返そうとした——その時。
「待て、ミラ」
ハーブの声が響いた。
「——ッ!?」
驚いたミラが振り返ると、木々の影から三人が姿を現した。
「……聞いていたのね」
ミラはため息混じりに言う。
「当然だ。お前、一体何を企んでいる?」
ハーブが鋭く問い詰めると、ミラは微笑んだ。
「……企んでいる、なんて酷い言い方ね」
「昨日も黒鋼会と話していたわね。あなた、敵なの?」
玲華が険しい表情で詰め寄ると、ミラはふっと肩をすくめた。
「敵かどうかは、あなたたち次第よ」
「……どういう意味ですか?」
雪奈が不安そうに問うと、ミラは静かに答えた。
「私は、ハーブを“正しい道”に導くために来たの」
「正しい道……?」
「ハーブ、あなたはまだ覚えていないのね。私たちの“過去”を」
ミラの瞳が、どこか寂しそうに揺れた。
「……俺たちの過去?」
「ええ。あなたと私は、かつて“共に戦った仲間”だったのよ」
「——!」
ハーブの中で、微かに何かが蘇る。
霧のように曖昧だった記憶の断片。
“戦い”——“剣”——“守るべきもの”——。
「私はあなたを取り戻しに来たの。……本当のあなたを」
ミラの声が、ハーブの心を揺さぶる。
「本当の……俺?」
「ええ。あなたはまだ、本当の力を目覚めさせていないわ」
その瞬間、ハーブの脳裏に——ひとつの光景がフラッシュバックする。
燃え盛る戦場。
無数の剣士たちが倒れる中、自分の前に立っていたのは——。
「……ミラ、お前……あの時の……!」
ハーブは頭を押さえ、僅かに震えながら呟いた。
「そうよ。私は、あなたとともに戦った戦士」
「……ッ!」
玲華と雪奈が、驚愕の表情でハーブを見る。
「ハーブ……まさか、あなた……」
玲華が言葉を失う。
「……異世界で、ただの迷い人なんかじゃなかった……?」
雪奈もまた、震える声で呟いた。
「私は、ハーブの“真実”を知っている。そして、それを彼に思い出してほしいの」
ミラが静かに微笑む。
「お前の目的は……俺の力を目覚めさせることか」
ハーブは険しい表情を浮かべる。
「そう。そして、それができるのは——私だけ」
ミラは自信に満ちた声で言った。
その言葉に、玲華と雪奈は強く反応する。
「……そんなの、認めない」
玲華が一歩前に出る。
「ハーブは、私たちと一緒にいるのよ! そんなあなただけのものみたいな言い方、絶対に許さない!」
「そ、そうです……! ハーブさんのことは、私たちだって……!」
雪奈も勇気を振り絞って声を上げる。
ミラはふっと微笑んだ。
「……ふふっ。いいわ。なら、私に勝ってみせて?」
「……!」
「これからの戦いで、ハーブが誰の側にいるべきか、私たちの実力で決めるのよ」
挑発的な微笑を浮かべるミラ。
玲華と雪奈は怒りに燃え、ハーブは困惑しながらも、内に秘めた真実を思い出しつつあった——。
新たな戦いが始まる。
そして、ハーブの過去が、ついに明かされる時が来る——。
次回予告
ミラの言葉に揺れるハーブ。
玲華と雪奈は、彼を巡る争いにどう動くのか?
そして、ハーブの“本当の力”とは——?
次回、第32話「試される絆」
戦いの幕が、ついに切って落とされる——。
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