第30話 交錯する想い
ミラの宣戦布告
「さて、これからどうするつもり?」
翌日の昼休み。学園の中庭で、玲華と雪奈は向かい合っていた。
「……どう、とは?」
雪奈が静かに問い返す。
「決まってるじゃない。あのミラとかいう女よ!」
玲華は腕を組み、険しい表情をしていた。
「……確かに、ミラさんはハーブさんに積極的ですね……」
雪奈は少し俯きながら言う。
昨日の出来事を思い出すと、胸がざわつく。
ミラはハーブに甘い言葉を囁き、身体を寄せていた——。
あの光景を見たとき、自分でも驚くほど、心が乱れた。
(……私、ハーブさんにこんなに惹かれていたんだ……)
雪奈は自分の気持ちに、改めて気づかされていた。
「私たちの知らない“昔の関係”があるみたいだけど……だからって、あんな距離感、許せるわけないでしょ!」
玲華は憤慨しているが、それは雪奈も同じだった。
「……私も……正直、苦しいです……」
小さな声で呟く雪奈に、玲華は目を見開いた。
「雪奈……?」
「……私、ハーブさんと一緒にいたい。……だから……ミラさんには負けたくありません」
玲華は驚いたが、すぐに口元を持ち上げた。
「ふふっ……いいわね。その意気よ!」
玲華は満足そうに笑い、雪奈に手を差し出した。
「じゃあ、共闘する?」
雪奈は一瞬、戸惑ったような顔をしたが、すぐに頷いた。
「……はい」
二人が握手を交わしたその時——。
「ふふっ……楽しそうな話をしているわね?」
背後からミラの声がした。
振り返ると、そこには余裕の笑みを浮かべたミラが立っていた。
「あなたたち、そんなに私のことを意識してくれるなんて……嬉しいわ♪」
「……ッ!」
玲華と雪奈は警戒する。
「でも、残念ね」
ミラはゆっくりと歩み寄ると、二人を見渡しながら微笑んだ。
「ハーブは、最終的に“私”を選ぶことになるのよ」
「……何ですって?」
玲華の目が鋭くなる。
「ふふっ、だって、私はハーブの“運命の人”なんだから」
ミラの言葉に、玲華と雪奈は息を呑む。
「あなたたちがどんなに頑張っても、無駄よ。……だって、私はハーブの“過去”を知っているもの」
ミラはくすくすと笑いながら去っていく。
残された玲華と雪奈は、それぞれ拳を握り締めた。
「……運命、ね」
玲華は鼻を鳴らす。
「そんなもの、私が塗り替えてやるわ」
「……私も……」
雪奈も小さく頷いた。
ハーブへの想いを貫くため——二人の戦いは、ここからが本番だった。
ハーブの戸惑い
その日の放課後。
ハーブは屋上で、一人考え込んでいた。
「……ミラ、か」
彼女が現れてからというもの、過去の記憶が断片的に蘇ってくる。
彼女が言った、“ハーブの運命”とは一体何なのか。
(俺の力が目覚めれば、世界の均衡が崩れる……?)
もしそれが本当なら、自分は危険な存在ということになる。
——だが、それを理由に“俺自身”を変えるつもりはない。
「ハーブさん……?」
不意に聞こえた雪奈の声に、ハーブは顔を上げた。
「雪奈? どうした?」
「……少し、お話ししたくて」
彼女は小さく微笑んで、ハーブの隣に腰を下ろした。
「ミラさんのこと、考えていましたか?」
「……まぁな」
ハーブが正直に答えると、雪奈は少し寂しそうに目を伏せた。
「私たち、ミラさんには負けません……」
「……?」
「玲華さんも、私も……ハーブさんが大好きだから」
ハーブの心臓が、一瞬だけ跳ねた。
(——今、こいつ、何を言った?)
雪奈は少し頬を赤らめながら、真っ直ぐにハーブを見つめる。
「だから、ミラさんが“運命”を語るなら……私たちも、ハーブさんにとっての“運命”になれるように、頑張ります」
「……雪奈」
ハーブは、雪奈の純粋な想いに、戸惑いを隠せなかった。
(俺は……どうすればいいんだ?)
そんなハーブの葛藤をよそに、屋上の扉が勢いよく開いた。
「ハーブ!!」
玲華が駆け込んできた。
「……玲華?」
「ちょっと、大変なことになったわよ!」
彼女の表情は険しく、ただごとではないことが伝わってくる。
「何があった?」
ハーブが立ち上がると、玲華は一息ついて言った。
「……ミラが、黒鋼会の連中と接触してる」
「——!!」
空気が一変した。
「私が偶然見かけたんだけど……彼女、黒鋼会の連中と密かに話してたのよ」
「……やはり、関係があったか」
ハーブの目つきが鋭くなる。
「どうするの?」
玲華が問いかけると、ハーブはしばし沈黙した後、ゆっくりと答えた。
「……直接、問いただすしかないな」
その言葉に、玲華と雪奈は頷いた。
ミラの真意を知るため——。
次なる戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。
次回予告
ミラと黒鋼会の関係とは?
ハーブたちは、彼女の真意を暴くことができるのか?
次回、第31話「覚醒の兆し」
隠された記憶が、静かに目を覚ます——。
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