第29話 囚われし姫君
ミラの思惑
学園の屋上での出来事のあと、ハーブはしばらくの間、玲華と雪奈の鋭い視線に晒されることになった。
「……で、説明してもらうわよ?」
玲華は腕を組み、じっとハーブを睨んでいる。
「私も……その……気になります」
雪奈もいつもより険しい表情をしていた。
「別に何もしてない。ミラが勝手に……」
「それが問題なのよ! あの女、最初からハーブを狙ってるじゃない!」
「……そう、ですね。とても積極的で……その……見ていられませんでした……」
雪奈は消え入りそうな声で言うが、その頬はうっすらと膨れている。
「……お前たち、何をそんなに怒ってるんだ?」
「「はぁ!?」」
玲華と雪奈の声が重なる。
(……やっぱり、よく分からん)
ハーブは軽く頭をかいた。
そんなやり取りの最中——。
「お邪魔してもいいかしら?」
ミラが、ひょっこりと現れた。
「げっ……!」
玲華が露骨に嫌そうな顔をする。
「まあまあ、そんなに怖い顔しないで?」
ミラはくすっと笑い、ハーブの隣にぴたりと寄り添った。
「さて、ハーブ? そろそろ本題に入りましょう?」
「……本題?」
「ええ。あなたに、異世界の真実を少しだけ教えてあげるわ」
ミラはいたずらっぽく微笑むが、その目はどこか真剣だった。
玲華と雪奈も警戒しながら耳を傾ける。
「あなたは、“選ばれた存在”なの」
ミラはそう言うと、一瞬、遠い目をした。
「あなたは、かつて異世界で“王の後継者”として目をつけられていた……覚えてる?」
「……王の後継者?」
ハーブの眉がピクリと動く。
「ふふっ、やっぱり覚えてないのね。無理もないわ。あなたの記憶は意図的に封印されているもの」
「封印……?」
玲華と雪奈も驚きの表情を浮かべた。
「じゃあ、ハーブの記憶が戻ったら……?」
「ええ、彼は“本来の役割”を思い出すでしょうね。そうすれば——」
ミラはそこで言葉を止めた。
「ま、続きはまた今度ね♪」
「……おい」
ハーブがツッコミを入れるが、ミラは軽くウインクして去っていく。
玲華と雪奈は、納得がいかない様子でハーブを見つめた。
「……ねぇ、ハーブ。あなた、絶対にミラの言うことを鵜呑みにしちゃダメよ?」
「……はい、私も……その……何か、嫌な予感がします……」
二人の言葉に、ハーブは小さく頷いた。
ミラの言葉は確かに気になる。だが、彼女の真意はまだ見えない。
(……俺は、一体……)
ハーブの胸に、不安が広がっていった——。
次回予告
ハーブの記憶の封印——その裏に隠された秘密とは?
ミラの目的は、果たして敵か味方か?
そして、玲華と雪奈のハーブへの想いが、さらに揺れ動く——!
次回、第30話「交錯する想い」
三人のヒロイン、それぞれの決意が交差する——。
読んでくださりありがとうございます!
更新頻度ですがなるべく毎日11時頃と22時頃の2話投稿を目指します!
感想など書いていただくと今後の励みになるのでどんどんコメントしてください!