第25話 影の狩人
旧校舎・深淵の闇
影喰いの姿が歪む。
その輪郭は闇に溶け込み、次の瞬間にはまるで霧のように姿を消した。
「っ……消えた?」
玲華が銃を構えたまま辺りを警戒する。
「いや、奴はまだここにいる」
ハーブは静かに剣を構え直した。
視線を四方へと巡らせながら、目を閉じる。
——音がない。気配もない。だが、確かに“いる”。
(どこだ……どこに来る……?)
静寂の中、わずかに空気が揺れた。
——真後ろから!!
「ハーブさん、後ろ!」
雪奈が叫ぶ。
ハーブは迷いなく振り向きざまに剣を振るった。
——ガキィン!
鋭い衝撃音。
闇の中から伸びた漆黒の爪と、ハーブの剣が激しくぶつかり合った。
影喰いが唸るような低音を発しながら、爪を強引に押し込もうとする。
「こいつ……力が増してる……?」
ハーブが剣を押し返しながら呟く。
「そんなの関係ないわ、倒すしかない!」
玲華はすぐさま符を投げつける。
燃え上がる符の炎が影喰いを焼き、再び悲鳴が響く。
「今のうちに……!」
玲華が続けざまに銃を撃つが、影喰いは霧のように身体を分散させ、銃弾を避ける。
「……物理攻撃が通じにくいのが厄介ね」
玲華が苛立たしげに言う。
「だったら、もっと確実に当てるまでだ」
ハーブはそう言うと、剣を逆手に持ち替えた。
——静かなる構え。
玲華と雪奈は息を呑む。
この構えは、ハーブが本気で仕留めにかかる時のもの。
影喰いは低い唸り声を上げながら、再び動いた。
超高速で動き回りながら、どこから襲いかかるかを迷わせる狡猾な動き。
だが——。
「——甘い」
ハーブが静かに呟くと、次の瞬間——。
シュッ——!
影喰いが動く前に、ハーブの剣が既にその軌道を捉えていた。
狙うのは——心臓部。
影喰いは驚いたようにわずかに後退しようとする。
しかし——遅い。
「終わりだ」
——ズバァァァッ!!
剣が影喰いの身体を両断する。
その瞬間、影喰いの身体は真っ二つになり——。
黒い霧となって霧散した。
「倒した……?」
玲華が警戒しながら問いかける。
ハーブは剣を構えたまま、霧の消える様子をじっと見つめた。
そして——。
影喰いは完全に消滅した。
ハーブは小さく息を吐き、剣を収める。
「……終わったな」
玲華と雪奈も安堵の表情を見せる。
「よかった……ハーブさんが無事で」
雪奈が心底ほっとしたように微笑んだ。
玲華も「まったく、心臓に悪い戦いだったわ」と軽くため息をつく。
だが、その時——。
「……いや、まだ終わっていない」
ハーブが厳しい表情で言った。
玲華と雪奈が驚いた顔をする。
「影喰いは自然発生する存在じゃない。誰かが、この世界に呼び込んだんだ」
——この世界に異世界の存在を呼び込むことができる者。
その可能性を持つのは、ただ一人。
黒鋼会の関係者。
もしくは——異世界と深く関わる者。
「つまり……誰かが、意図的に?」
玲華が険しい顔をする。
ハーブは黙って頷いた。
——誰が、何の目的で?
その疑問が、ハーブの胸に重くのしかかる。
◆
その頃、別の場所——。
「ほう……まさか、影喰いを討つとは」
闇の中で、ひとりの男が微笑んでいた。
その瞳には興味深げな光が宿っている。
「やはり面白いな、ハーブ・グレイヴ」
彼はゆっくりと立ち上がる。
「さて……次は、どう動くか」
静かに笑いながら、男は闇の中へと消えていった——。
次回、第26話「動き出す策略」
黒鋼会の新たな陰謀。
そして、ハーブの前に現れる新たな脅威——。
物語は、さらなる混迷へと突き進む——。
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