第24話 異世界の亡霊
旧校舎の闇の中——。
「——見つけた」
その不気味な声とともに、廊下の奥の闇が揺れた。
何かが、こちらへ向かってくる——。
ハーブ、玲華、雪奈の三人は即座に構えた。
「っ……誰?」
玲華が鋭く問いかける。
だが、返事はない。代わりに、異形の“何か”がゆっくりとその姿を明らかにした。
それは、人の形をしていた。
だが、顔は闇に溶け込み、輪郭が曖昧になっている。
影のように揺らぎながら、そいつはハーブを真っ直ぐに見つめていた。
「……」
ハーブは無言のまま、剣を握る。
「ハーブさん……これは、一体……?」
雪奈が恐る恐る尋ねるが、ハーブ自身、はっきりとした答えは持ち合わせていなかった。
だが——。
この存在には、見覚えがあった。
(こいつ……まさか……)
——異世界。
ハーブがかつていた世界には、「影喰い」と呼ばれる存在がいた。
強い魂を持つ者に取り憑き、その力を奪う異形の怪物。
だが、影喰いはこの世界にはいないはずだった。
ハーブがこちらの世界に来てから、一度も遭遇したことはない。
なのに——なぜ、今ここに?
「……玲華、雪奈。これは普通の敵じゃない。こいつは……俺のいた世界の“亡霊”だ」
「えっ……!?」
玲華と雪奈の顔が驚愕に染まる。
その瞬間——影が揺らめいた。
そして、一瞬にしてハーブの背後へと回り込んだ。
「速い——!」
玲華が叫ぶが、ハーブはすでに動いていた。
ガキィン!!
剣を振るい、闇の腕を弾き飛ばす。
衝撃が旧校舎の廊下を駆け抜けた。
影の怪物は後退するが、すぐに形を変え、今度は玲華へと襲いかかった。
「——チッ!」
玲華は即座に回避し、銃を抜く。
「雪奈、下がって!」
玲華の指示に、雪奈は少し後ろへ下がった。
パンッ! パンッ!
玲華の銃撃が響く。
だが、影の怪物は弾丸をまるで霧のようにすり抜けた。
「効かない……!?」
「こいつは普通の物理攻撃じゃ倒せない!」
ハーブが叫ぶ。
「だったら……!」
玲華は素早くポケットから小さな符を取り出し、影の怪物に向かって投げつけた。
——符術。
玲華が黒鋼会で学んだ、霊的な力を込めた攻撃。
符が影に触れた瞬間、激しく燃え上がった。
ギャァァァァァ!!
影の怪物が耳障りな悲鳴を上げる。
だが、すぐにその身体を霧散させ、形を変えた。
「……効いたけど、決定打にはならないみたいね」
玲華が舌打ちする。
「ハーブさん……これは、一体……?」
雪奈が震える声で尋ねる。
「……俺のいた世界の敵だ」
ハーブは剣を構え直しながら言った。
「影喰い——強い魂を喰らい、力を奪う怪物だ」
「なぜそんなものが、この世界に……?」
玲華が困惑した表情を浮かべる。
「……わからない。でも、間違いなく、誰かがこいつをこの世界に呼び込んだ」
——この世界に異世界の存在を呼び込む。
それは、普通の人間にはできないはずだ。
ならば、一体誰が——?
「……とにかく、今はこいつを倒す」
ハーブは静かに言い、剣に力を込めた。
——刹那、影が再び動いた。
◆
「……これは、興味深いね」
どこか別の場所。
暗闇の中で、一人の男が旧校舎の様子を眺めていた。
その目は、まるで実験の経過を楽しむかのような冷たさを宿していた。
「異世界の怪物と、異世界の剣士……さて、どちらが勝つか」
彼は静かに微笑む。
——ハーブの知らぬところで、新たな陰謀が動き出していた。
次回、第25話「影の狩人」
影喰いとの死闘。
そして、新たな敵の存在が明らかになる——。
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