第19話 学園祭、開幕!
学園祭当日——。
校門の前には、早朝から多くの来場者が並んでいた。学内には色とりどりの装飾が施され、各クラスや部活動の出し物が活気に満ちている。模擬店から漂う食べ物の香ばしい匂いが辺りに広がり、どこからともなく音楽が流れてくる。
「うおおっ! ついに始まったな!」
坂井が興奮気味に腕を組み、ハーブの肩をバンバン叩いた。
「……そんなに騒ぐな」
ハーブは少し呆れつつ、周囲を見渡した。
(ここまで盛り上がるものなのか……)
異世界では学園祭のような文化はなかったため、ハーブにとっては新鮮な光景だった。
屋台の列、ステージパフォーマンスの準備に奔走する生徒たち、廊下でビラを配る人々——。日常とはまるで違う雰囲気に、ハーブはわずかに興味を引かれていた。
「よし! 俺たちのクラスも準備万端だ、行くぞ!」
坂井がハーブを引っ張り、教室へ向かう。
メイド喫茶、開店!
ハーブたちのクラスで開くメイド喫茶には、開店直後から早くも長蛇の列ができていた。
「いらっしゃいませ、ご主人様♪」
扉を開けると、可愛らしいメイド服を着た女子たちが元気に迎えていた。リボンやフリルのついた制服を身にまとい、普段とは違う雰囲気を醸し出している。
その中には——。
「……雪奈、お前も着ているのか」
ハーブは思わず目を見張った。
「は、はい……その……似合いますか?」
雪奈は恥ずかしそうに視線を落としながら、控えめにスカートの裾を摘んで見せた。
普段の清楚で落ち着いた雰囲気とは違い、純白のメイド服に身を包んだ彼女は、まるで別人のように愛らしかった。袖口や襟元にはレースがあしらわれ、ふんわりと広がるスカートが華やかさを引き立てている。
「……悪くない」
「ふぁっ……!? そ、それはつまり……?」
「いや、その……普通に似合っていると……」
ハーブが困惑しながら言葉を濁すと、雪奈の顔がますます赤くなった。
「雪奈、注文が入ってるぞ」
玲華の声が割って入る。
「はいっ!」
雪奈は慌てて動き出したが、その背中には嬉しさが滲んでいた。
ハーブはそれを見ながら、ふと玲華に視線を向ける。
玲華の役割
「玲華、お前は?」
「私は会計担当よ」
玲華はメイド服ではなく、黒いベストにタイトなスカートを身に着け、冷静に売り上げを計算していた。
レジの前で客と向き合う姿は、どこかプロフェッショナルな雰囲気すら漂っている。
「メイド服を着る気はないのか」
「ないわ」
即答だった。
「……まぁ、お前にはその格好の方が似合っているかもしれないな」
「……そう?」
玲華はほんの少しだけ、目を伏せた。
(似合ってるって……そんなの、今まで言われたことなかった)
自分の役割に徹していたつもりだったが、なぜかハーブの何気ない一言が胸の奥に引っかかる。
「玲華、会計お願い!」
「わかってるわ」
気持ちを切り替えるように、玲華は売上の計算に戻った。
二人の会話
昼休憩に入り、クラスのメンバーが交代で休憩を取ることになった。
雪奈と玲華も、教室の隅でひと息つく。
「玲華さん、お疲れ様です」
「あなたもね。よくやってるわ」
雪奈は玲華に温かいお茶を手渡した。
「ありがとうございます」
玲華が一口飲み、少し落ち着いたように息をつく。
「……ねぇ、雪奈。あなたはハーブのこと、どう思ってるの?」
「えっ……?」
突然の質問に、雪奈は思わず固まった。
「……その……どう、とは……?」
「そのままの意味よ。あなた、最近ハーブと一緒にいることが多いじゃない」
「そ、それは……私が、お世話になっているから……!」
玲華はそんな雪奈をじっと見つめる。
「それだけ?」
「……」
雪奈は、ぎゅっとスカートの裾を握りしめた。
「わ、私は……っ」
言葉に詰まる雪奈を見て、玲華はフッと小さく笑った。
「……ふふ、そう。まぁ、気をつけなさいよ」
「え?」
「ハーブは、気づかないから」
玲華の言葉の意味を理解する前に、休憩の時間が終わった。
「そろそろ戻るわよ」
「は、はい……!」
雪奈は胸の奥に生まれたもやもやした感情を抱えたまま、再び店内へと戻っていった。
黒鋼会の影
その頃——。
学園祭の賑わいの中、黒鋼会の一部のメンバーが動き出していた。
「ターゲットは……あのメイド喫茶の中か」
木陰から、鋭い目を光らせる黒鋼会の一員。
「……さて、計画を始めるか」
ハーブたちの知らないところで、静かに事件の幕が上がろうとしていた——。
次回予告
学園祭の最中に起こる“異変”!
黒鋼会の刺客が動き出し、ハーブたちは予想外の事態に巻き込まれる。
次回、第20話「暗躍する影」
読んでくださりありがとうございます!
更新頻度ですがなるべく毎日11時頃と22時頃の2話投稿を目指します!
感想など書いていただくと今後の励みになるのでどんどんコメントしてください!