第15話 影蛇の再来
朝の光が学園の窓から差し込み、穏やかな日常が戻ってきたかのように思えた。
ハーブは教室の席に座り、窓の外を眺める。黒鋼会の襲撃から数日が経ったが、まだ完全に警戒を解くわけにはいかなかった。
「おはよう、ハーブさん」
雪奈が教室に入ってきて、ハーブの隣の席に座る。彼女はいつもと変わらない優しい微笑みを浮かべていたが、どこか少し緊張しているようにも見えた。
「おはよう、雪奈」
ハーブが挨拶を返すと、雪奈はそっと視線を落とし、少し躊躇いながら言葉を紡いだ。
「その……最近、大丈夫ですか?」
「ん? 何がだ?」
「玲華さんが襲われたり……ハーブさんも危険なことに巻き込まれたりして……」
彼女の心配そうな声に、ハーブは苦笑する。
「大丈夫だ。あの程度の連中なら、特に問題はない」
そう言ったものの、黒鋼会が次にどんな手を打ってくるかは分からない。敵の動きが止まっているように見える今が、一番危険かもしれない。
「でも……」
雪奈はまだ言いたげだったが、ちょうどその時、教室の扉が勢いよく開かれた。
「おーい! ハーブ!」
クラスメイトの一人、坂井が駆け込んできた。
「どうした?」
「購買の限定パン! もうすぐ売り切れそうだぞ!」
「……そんなに必死になることか?」
「お前、知らないのか? 週に一度しか販売されない“究極のメロンパン”があるんだぞ! これは絶対に逃せない!」
ハーブは呆れつつも、雪奈が小さく笑っているのを見て、少し気が緩んだ。
「じゃあ、行くか」
こうして、ハーブは雪奈と共に購買へ向かうことになった。
学園の昼休み。購買前の激戦
購買前にはすでに長蛇の列ができていた。
「くっ……! なんでこんなに人が多いんだ!」
坂井が焦りながら並んでいると、突然、一部の生徒たちがざわめき始めた。
「えっ……あの人、誰?」
「転校生……?」
ハーブも視線を向けると、購買の前に一人の男が立っていた。
年齢はハーブたちと同じくらいだが、目つきが鋭く、どこか普通の生徒とは違う雰囲気を持っている。
(ただ者じゃないな)
直感的にそう思った。その男は静かにハーブの方へと歩いてきた。
「ハーブ、だな?」
「そうだが……お前は?」
「俺の名は“時雨”」
時雨——その名を聞いた瞬間、玲華が言っていた「黒鋼会が送り込む刺客」のことが頭をよぎる。
「お前に、用がある」
ハーブは冷静に相手を見つめながら、軽く息を吐いた。
(やはり、黒鋼会の刺客か……)
購買の喧騒の中、緊迫した空気が流れる。
「ここでは話せない。放課後、屋上に来い」
そう言い残し、時雨は人混みの中へと消えていった。
放課後——学園の屋上
ハーブが屋上に足を踏み入れると、そこにはすでに時雨が待っていた。
「来たな」
「お前が俺に何の用か、聞かせてもらおうか」
時雨は少し笑い、両手をポケットに突っ込んだまま言う。
「シンプルだ。俺と戦え」
「……理由を聞いても?」
「俺は黒鋼会の“影”——組織の戦闘部門に所属している。お前がどれほどのものか、確かめるのが俺の役目だ」
その言葉と同時に、時雨の周囲の空気が変わった。
(……速い)
ハーブが警戒する間もなく、時雨の姿がかき消えるように消え——
「——ッ!」
すぐ背後に、鋭い殺気を感じた。
(こいつ……本気で殺る気か?)
時雨の手刀が、ハーブの首元を狙って振り下ろされる——
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