終わりのない夢
───私は最近、何だか変な夢を見る。
言葉にするのは難しくて、どんな言葉を並べたら良いのか分からなくて、やっぱり「変な夢を見た」としか言いようがない。
そんなことを思い出そうとしても、もちろん覚えていなくて「変だった夢」はもう記憶から消えてしまって欲しいところであった。
「お米を研ぐでごわす!!!!!!!!」
私の夢を変にさせた原因のヤツが、ベットのすぐ近くの床にあぐらをかきながら、目に悪い緑色のバケツの底を片手に持ってお米を研いでいるのである。
どうすれば夢のことを忘れられようか。
私はベッドから上半身を起こしたままで困惑して固まっていたが、夢の中ではなく現実で改めて彼の姿を見ていて、腹の底から笑いが込み上げてきた。
何と言っても、相撲の力士にも劣らぬような体格で身長が2mは優に超えていそうな巨漢が、虹色のハイレグを1枚だけ履いて迫真の表情で大声を出しながらハデハデな緑色のバケツで必死にお米を研いでいるのである。
足し算をしすぎて逆に面白い。
そんなハイレグ力士は私が起きたことに気がついたのか、首をぐりんと回して今にも目玉が飛び出そうな顔をこちらに向けた。
もはや今の私は顔を向けられただけで面白く感じてしまい、彼に目を合わせることができない。
彼は、私の方に体を向けてから軽く踏ん張って立ち上がったので何をしてくるのかと思うと
「お米を食えでごわす!!!!!!!!」
ザッバアァァン!!
思い切りバケツに入った米と白く濁った水をかけてきて、私はまたもや氷のように固まって困惑した。
私の頭の中にはクエスチョンマークしか浮かばない。
……しかも、今の彼の行為によってあまりにも呆気なく「変な夢」のことを忘れてしまった。
「?!大丈夫でごわすかッ!?」
ハイレグ力士は必死の思いで私に尋ねてくる。
いやお前がやったんやろがい。
「………そういえば、名前を言っていませんでしたね」
突如感情が無くなったように真顔になったハイレグ力士は、ごわすキャラから素に戻って自己紹介を始めた。
「清藤豪本中・センゴリエクス・村鳳魑橋魍と申します」
「……………………へ?」
「まぁ、これはおいどんが自分でつけた二つ名のようなもので………おいどんの本名はとでも言う思ったでごわすか!!!!!!!!!!!」
「?!?!!」
唐突に声を荒らげられてびっくりした瞬間に、ハイレグ力士はどっしんと音を立ててどすこいポーズを決めてから、身体中を金色にして光をも超えるようなスピードで部屋中を暴れ出した。
彼は当然のように空を飛び、部屋の家具や飾りなどを次々と破壊してゆく。
私は唖然として声も出せず、ただただ金ピカの力士がどすこいポーズのままで破壊神の如く次々と物を壊してゆく姿を見つめることしかできなかった。
ずん
「うおおぉおわっ!!?」
突然ゴールデン力士は私のすぐ目の前に顔を止めてきたため、私は思わず叫んでしまった。
バゴオォォオン!!!
そして私は咄嗟に同時に彼の首を片手で掴み、メキメキと亀裂ができる勢いでベッドの隣にある壁に金ピカ力士を叩きつけてしまった。
「あなたのお名前は何と言うのですか?」
私に首を絞められている影響で大人しくなった力士は、等価交換のように私の名前を問いかけてきた。
「あぁ、私は大条碧生と言います。今年で1038歳ですね」
「へぇ〜おいどんより28471歳年下なんですか。まだまだ若者ですね」
ふふっと人生の先輩の彼は微笑んだ。さすがは869312歳というだけあって、何だか大人の余裕のようなものを感じる。
「では次に、あなたの長所を教えてください」
あぁ、そうだったそうだった…………私は今、この高級ハイレグブランドの専門店を経営している会社に面接をしに来ているんだった。
「…………はいっ!」
私は面接官にしっかりと返事をし、声の大きさで気合いは十分だとアピールをすることができた。
「ま、君はもう落ちんの確定だけどね」
「えっ!もう合格って言っちゃっていいんですか!!?」
私は嬉しすぎるあまり「やったあぁぁ!!」と叫びながら立ち上がって椅子を持ち上げ、喜びアピールに面接官へ椅子をぶん投げた。
面接官はゲーミングPCのように虹色に輝き始めて、平然と豪速球と言わんばかりの速さで投げられた椅子を座った姿勢のまま瞬間移動で避ける。
バリイィイイィン!!
面接官の避けた椅子は、ガラス窓を直撃して四方八方へ華麗に透明の破片を飛ばしながら部屋の外へ落ちていってしまった。
ドッボオオォン!!
「りんごジュースだーーーっ!!」
ガラス窓にできた大きな穴から大量のりんごジュースが流れ込み、部屋の中は一気に灼熱地獄へと化してゆく。
このままでは自分の身が危ないと考えた私は、片方の脚を持ち上げ、もう片方の脚を軸にして竜巻のように体を回し始めた。
バゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
せり上がってくるりんごジュースから逃げるため、私は必死の思い出体を回転させて、ビルの天井をことごとく破壊しながら上の方へ飛んでゆく。
バゴゴゴゴッ………
そして全てのコンクリートで作られた壁を乗り越えた先には、思わず息を呑んでしまうほどの美しい雲海が広がっていた。
「き………きれいだ…………………」
しばらく雲の上の絶景を眺めていると、後ろから何かがこちらに飛んで来ている気配を感じた。
私はバッと振り返って後方へ体を向けると、1人の象のくちばしのような服を着た女の子が私の方へ飛んできていると分かった。
「にゃ〜ん」
「あらかわい゛ッ!?」
私の目の前まで近寄ってきた彼女は、いきなり覚醒したかのように筋肉モリモリゴリマッチョになり、私の腹のあたりに思い切り回し蹴りをしてきた。
「にゃおぉ〜ん♪」
クソ女は勝手に自分が勝った気になっていて、私は「ふざけんじゃねえぞ!!」と思ったが反撃をすることはできない。
段々と火星へ落ちていってしまっているのだ。これでは回復魔法でも使わない限り、あのクソカス女に攻撃はできない。
カァァアァ……カァアアア………
「ッ……?!この鳴き声は………ッ!!」
誰もがよく知っていて、誰もが憧れてしまうようなこの鳴き声の鳥の名は────
「マダラチュウヒ!!お前助けに来てくれたのか!!」
「えっ……いやっ……あの……………ち………違いますケド……………」
「は゛ぁ゛あ゛ぁ゛!!?俺の酒が飲めねぇって言うのかァん!!??」
あーあー、本当にこういうの可愛げのない後輩は嫌いだ。こんなに俺が親切に仲良くしようとしてあげてるってのに。
「あのさぁ、おいどんたちが頑張ってこの居酒屋探したりとか色んな準備とかしたのに、なんで何もしてない君がそんな態度なの?」
そうだそうだ。もっと言ってやれ長谷川。
「オラァッ!!」
「?!?!」
唐突に嫌われ後輩の拳から繰り出されたパンチは、私を模したクローンの腹を貫通した。
「ほう……向かってくるのか…………。逃げずにこの私に……」
「あぁいえ、間に合っていますので。はい」
ダニエーライナカベはそう言ってから、片手を地面に向けてから「ふおわっっ!!!」と力を込めて店を爆発させた。
ちゅどーーーーーん!!!
私は、突如大きな波によって「ベゴボギギガボゴバボオォン!!!!」と音を立てて水中のダイラタンシーの上に倒れてしまい、偶然通りかかった飛行機に「ぽしゅ」と体をひねり潰されてしまった。
『果たし状 碧生・大条へ』
そしていつの間にか腕にデカデカとそう書かれており、渋谷によくあるムーディーな野菜の無人販売店のように厳かな雰囲気を感じる。
「…………でもなぁ、これで素直に蔓延ってもどうせ本能寺だろうし…………。まぁ別に理科準備室にまで行かなくてもいっか」
私はマスキングテープをビリビリと破り裂くように、自分の腕を骨と筋肉と頸動脈ごともぎ取ることにした。
「ふっふっふ………これでこいつのことは忘れられあ゛ぁ゛ぃ゛た゛た゛た゛た゛た゛っ!!」
自分で自分の腕を引っ張っている猛烈な痛みによって私の意識は急速に戻り始め、自分はベッドの上で寝てしまっていたことに気がついた。
「はっ………、夢か………………」
ハイレグ力士に米と白い水をかけられたような感触はないが………一体、いつから寝てしまっていたのだろうか?
「麺の水を切るでごわす!!!!!!!!」
突然の大声でびっくりした後にそーっと頭を動かして横を向くと、例の巨漢の力士が虹色のハイレグを履いて自分の身の危機を顔で訴えかけるような迫真の表情で二足で立ちながら半分に切ったミラボールで麺を切っている様子が見えた。
「…………いやせめてお前は夢であってくれ!!」
「うるっっせぇでごわすね!!!!!!!!!!この麺の出汁にするでごわす!!!!!!!!」
「うぇええっ!!??」
「ふん゛ン゛ぬ゛ッ゛ッ゛!!!!!!!!!」
「くおぉわあぁぁ……………」
───そして私は麺の一部となり、皆が私を美味しく食べることを願って、センゴリエクスのラーメン専門店のスパゲッティとして販売されるのであった。
終わりのない夢
─終わり─
ごわす!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ごわす!!!!!!!!!!!!!!!!!!
嘘のあらすじ書いてすみませんでした。