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ラブロマンスの裏側で

無関係の人から見たら、それは確かに美しい物語だけど……

作者: 宝月 蓮

 アポロニア王国では十年程前からとある演劇が大流行している。

 それは隣国ルーナティウス王国のセレニスト村からアポロニア王国まで駆け落ちしたヴァイオレットとロバートの物語である。

 何とこの物語、実話なのだ。


 ルーナティウス王国のセレニスト村では毎年、豊穣の神に花嫁を捧げることで豊作を祈っていた。

 花嫁と言えば聞こえはいいが、実質生贄である。

 この年の花嫁に選ばれたのはヴァイオレットという十五歳の少女。ヴァイオレットは村の為に犠牲になることを受け入れた心優しい少女であった。

 村人達はヴァイオレットの優しさに心打たれ、豊穣の神に捧げられるその日までなるべく彼女の願いを叶えてあげようとした。

 ヴァイオレットが願ったのはただ一つ。恋人のロバートと共にいる時間が欲しいということ。

 ロバートはヴァイオレットより二つ年上の十七歳。村で一番剣術が強い少年である。

 豊穣の神に捧げられる日まで、ヴァイオレットはロバートと共に過ごしていた。残された時間を慈しむように。

 村人達は二人のことを切なくも温かく見守っていた。

 そしてヴァイオレットが豊穣の神に捧げられる日がやって来た。豊穣の神が祀られる神殿から迎えが来てヴァイオレットは村を旅立ってしまう。その際に、ロバートは自分もヴァイオレットを豊穣の神の元へ送り届けると申し出たのだ。

 愛し合う恋人同士、出来るだけ長く共にいたいのであろう。その思いを感じ取った村人達は、ヴァイオレットとロバートを神殿の使者達と共に送り出した。

 豊穣の神が祀られる神殿が近付くにつれ、ヴァイオレットは「まだ死にたくない、ロバートと一緒にいたい」という気持ちを涙ながらに吐露する。するとロバートは「俺も同じ気持ちだ」とヴァイオレットを抱きしめた。

 そしてロバートは神殿の使者を持っていた剣で攻撃し、ヴァイオレットを連れて逃げ出した。

 こうして二人が辿り着いたのが、このアポロニア王国。

 運命に抗った二人はこの国で幸せに暮らしたという。


「運命に抗ってまで貫いた愛、素敵だわ」

「ええ、そうね。私も憧れるわ」

 この演劇を見た者達はうっとりとした表情でヴァイオレットとロバートの話の余韻に浸っていた。

「ねえ、今もこの国にいるみたいよ。何でも、二人の間にはもう三人も子供がいるって話よ」

「それ私も知り合いから聞いたわ。その知り合い、ヴァイオレットとロバートの二人と仲が良いから本当の話よ」

「今でも幸せに暮らしているのね! 素敵だわ!」

 その後ヴァイオレットとロバートが幸せそうに暮らしていることが分かり、演劇を見た者達は更に盛り上がっていた。


 その様子を忌々しげに睨んでいる壮年の男がいた。

(何が運命に抗ってまで貫いた愛だ!? 二人が逃げたせいでセレニスト村の者達かどんな目に遭ったのか教えてやりたいくらいだ!)

 この男、名をブレンドンと言う。彼はセレニスト村出身なのだ。


 ブレンドンはヴァイオレットとロバートが逃げたことによる影響をもろに受けていたのである。






ーーーーーーーーーー






「何だと!? ヴァイオレットがロバートと共に逃げただと!?」

 神殿の使者から報告があり、セレニスト村は騒然としていた。

「左様。これは豊穣の神及び神殿に対する反逆だ。現在二人を捜索中だ。見つけ次第二人を極刑に処する。ヴァイオレットとロバートの身内も同罪だ。直ちに拘束せよ」

「そんな、お待ちください! 我々は娘達が逃げようとしていただなんて知らなかったのです!」

「どうかお許しを! 息子がこのようなことをするなど予想出来なかったのです!」

 ヴァイオレットとロバートの家族はそう許しを乞う。

 しかし神殿の使者からの指示で、無慈悲にもヴァイオレットとロバートの家族は捕えられて連れて行かれてしまった。

 極刑は免れないだろう。

「しかし、早いうちに儀式は(おこな)わなければならない。よって新たな花嫁を選ばねばならぬ」

 神殿からの使者は魔道具を取り出した。

 豊穣の神の花嫁を決める魔道具である。

 逃げてしまったヴァイオレットもこの魔道具により選ばれたのだ。


 そして、新たな花嫁として選ばれたのはケアリーという少女。


「そんな……どうしてケアリーが……!?」

 そう膝から崩れ落ちるのはブレンドンだった。

 彼はケアリーの恋人なのだ。

「ブレンドン……」

 ケアリーは悲しげに彼を見つめていた。

「なるほど、その二人は逃げたヴァイオレットとロバートと同じで恋人同士ということか。ならば引き離せ。ケアリーが逃げぬよう拘束しろ。そしてブレンドンを決して近付けるな」

 神殿からの使者の無慈悲な命令であった。


 こうしてブレンドンはケアリーと引き離されてしまい、そのままケアリーは花嫁という名の生贄として死を迎えるのであった。


 その後もヴァイオレットとロバートのようなことが起きぬよう、選ばれた花嫁は厳重に監視されるようになった。更に、花嫁に恋人がいた場合、無理矢理引き離されるのであった。






ーーーーーーーーーー






(ヴァイオレットとロバートはまだこの国にいる……。ならば俺達の幸せを壊した復讐をしてやるとするか……!)

 ヴァイオレットとロバートが逃亡してから十年が経過した今、ブレンドンはようやく二人の居場所を突き止めたのだ。

 彼は決して二人を許すことが出来なかった。


 無関係の人から見たら、ヴァイオレットとロバートの逃避行は確かに美しい物語だ。

 しかし、それにより被害を受けた者達は決してそうは思わないのである。

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― 新着の感想 ―
普通のめでたしめでたしでは終わらない、エッジが効いた作品ですね……! 確かに逃げてしまったそのあと大丈夫だったかな、と思いましたが……大丈夫じゃなかった……(´・ω・`) そもそもの問題はこの村の因習…
[良い点] 読みやすく物語に引き込まれる。 [一言] このあとどうなるのか気になりました。 確かに幸せになった二人の代わりに不幸になった者たちがいる。 避けては通れない道……。 作家活動でも言えるこ…
[良い点] 人間って本当に愚かだなぁ(上から目線)                      [気になる点] 神罰に触れたとかでなく新しい生贄という犠牲がでたわけね。 ケイリーは気の毒といえば気の毒だ…
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