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第100話 勇者と聖女

 アヴァロニア世界。楽園に実るリンゴのような形であったことから、創造神によりそう名付けられたという。


 そんな大陸の中央に二つの大国があった。


 一つはアルカネスト王国であり、隣接するヴァルノス帝国もまた強国に数えられる。


「スタンピードは万単位だと話してなかったか? これなら千にも満たないじゃないか?」


「レイス、遅れて魔物が現れるかもしれない。もう少し、様子を見ましょう」


 荒野に立つ二人は皇帝よりスタンピードの対処を願われていた。


 男性は勇者レイスであり、女性は聖女エマ。類い希なるジョブを授かった二人は勇者一行として、様々な命を受けていた。


 大陸の北端にあるテグライト山脈から漏れ出した魔物は小国を次々と破壊し、大陸の中央にまで押し寄せている。


 それはスタンピードと呼ばれる魔物の暴走であって、斥候の情報によると万単位での侵攻が予想されていた。


「もう何時間もホーンラビットすら湧いてないぞ?」


「千弱しかいませんでしたと報告するつもり? 撤収の後、万単位で押し寄せた場合に、あたしたちは責任を負わされるわよ?」


 エマは斥候の情報に疑問を感じつつも、現状維持を訴える。


 撤収後に被害が出てしまえば責任を逃れられない。何も現れなければ立っているだけなのだから、今は命令されたまま戦線に残るべきだと。


「エマ、何とか逃げだそう。俺たちの扱いは悪すぎる。そもそも万単位のスタンピードに二人で対処とかふざけてんのか? 命が幾つあっても足りないって」


 レイスは不満を持っていた。

 スラム出身である二人の扱いは実際に酷いものだ。他国から魔物討伐の依頼があったとして、大半を国が取りあげてしまう。更には危険な任務ばかり宛がわれており、どのような命令においても単独での行動を強いられていたのだ。


「仕方ないわよ。あたしたちは孤児だからね。優れたジョブを授かっただけであって、奴隷や物乞いと大差ない身分だもの」


 エマも国の扱いには辟易としていたけれど、皇帝陛下の命令に背くことなどできないと理解していた。


 なぜなら、二人は契約で縛られていたから。奴隷契約にも似た呪印を施されている。強大な力が国家に牙を剥かないようにと。


「俺は何とか帝国から逃れたい。次に国外へ出る任務があれば、帝国には戻らないつもりだ」


「無理だって! 契約に逆らったら心臓が爆発するのよ!?」


 施された契約は酷いものであった。指示書の通りに動かなければ、二人の命はそこまでらしい。心臓が破裂し、おびただしい血を吐きながら絶命するのだという。


「問題ない。俺は見てしまったんだ。俺たちの契約に隠された秘密。それを利用すれば、きっと呪いにも似た契約から解放されるはずだ」


 レイスは施された絶対契約に抜け道を見つけたようだ。それを使って、忌々しい契約から逃れられると考えているらしい。


「エマ、一緒に国外で暮らそう」


 言って、レイスはエマに口づけをした。


「こんなところでダメよ……」


「いいじゃないか? もう夕暮だし、こんな荒野に誰も来ねぇよ……」


 エマの同意を得ることなくレイスは乱暴にエマのローブを剥ぐ。


「あっ……」


 夕闇迫る荒野。息づかいの荒い男女の声が響いている。


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