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第96話 楽しみ

 俺は王都にあるガラムの別邸へと来ていた。

 謁見には参加していないテッド師団長も一緒である。


「私が証言できれば良かったのですが、向かった折りは炎に覆い尽くされたあとですし」


 ぶっちゃけ俺たち以外はエレナしか見ていない。

 地平線を埋め尽くす魔物の群れを証明することなんかできなかった。


「ふはは、良い。リオについて知ってもらう良い機会じゃ。ワシの想定通りじゃよ」


「お前な、俺は生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ?」


 どうもガラムはボケているのかもしれん。

 明日、俺は断罪に処される可能性が高かったというのに、まるで問題ないと言いたげである。


「心配するな。ワシに秘策がある。先ほど場を沈めても良かったのじゃが、マルコスのやつにも分からせてやらんと。リオが女神エルシリア様の使徒であることを」


「またそれか? 女神様が降臨してくれるなら証明できるけど、俺は通知を聞くしかできないんだぞ?」


 通知は脳内に届くだけだ。それに信仰心の高いジョブならば、誰でもその声を聞けるらしいし、証明になるはずもない。


「リオ、お前は絶対に死なん。ワシは先ほどの謁見をもっと掻き回してやりたかったんじゃ。リオの身代わりを申し出たのも、その一環。荒だてるほどに、リオの力が浮き彫りになる」


「俺としては浮き彫りにする前に何とかして欲しいぜ」


「分からんか? リオは男爵家の五男坊でしかなかった。ワシに拾われて辺境伯家の一員になったが、認識としてはただの成り上がりじゃ。それでは権力も求心力も得られん。圧倒的に不利な状況から覆してこそ、人を惹き付ける。待ち遠しいが、その機会は明日訪れることじゃろう」


 一貫してガラムは俺を信じている。


 確かにヒートストームを撃ち放てば、その威力に誰もが驚くだろう。しかし、それは再びどこかのエリアを火の海にするということだ。罰の上乗せになる気がするんだけど。


「ヒートストームを撃つのはやめた方がいいと思う」


「まあ、そうじゃな。フレイムで充分じゃ」


「いや、フレイムで驚愕されたのでは、あの炎を肯定できないだろ!?」


 フレイムの威力を認められたのなら、俺がヒートストームを撃つ必要性がない。

 十万以上という魔物の証明ができないのであれば、俺は火災を発生させた犯人でしかなくなってしまう。


「肯定してやるのじゃ。ワシを信じろ。そして度肝を抜いてやれ。逆らうことを許さない絶対的な力を誇示してやれ。ワシはそれを望んでいる」


 何か手札があるならば、俺にも教えろって。安心して魔法を撃てないじゃないか。


「何を隠している? 俺の無実を証明できるのか?」


「当たり前じゃ。ワシは大賢者だぞ? マルコスとかいう若造にやり込められるほど耄碌しておらん。疑い続けただけでなく、罪を着せようとしたこと。加えて王陛下に手間をかけさせたことまで。全部、奴に跳ね返してやろう」


 めっちゃ頼りがいがあるな。

 まあ、俺は作戦を知れば調子に乗りそうだし。何も知らされないのは、俺の言動が原因なのかもな。


「閣下、では逆に、マルコスに罪を着せるのでしょうか?」


「あの男は野心がありすぎるでの。南部でも問題が多いのじゃ。あわよくば辺境伯を廃爵に追い込み、侯爵領に組み込むつもりじゃろう」


 あのオッサンって侯爵家の人間だってのか。

 同規模の辺境伯が取り潰しになれば、南部の利権を独占できるってことかな。


「おい、あいつを断罪にできるのか?」


「まあ、そこまでは無理かもしれんの。ただし、ワシらの名誉を傷つけたのじゃ。状況証拠だけで断罪処分にしようとしたこと。相応の償いをしてもらうべきじゃな」


 何だか俺は上位貴族が恐ろしくなっていた。


 下位貴族であれば、罵り合いなんて日常茶飯事。死ねやら殺すだとかの口喧嘩は父上を見ていたから知っている。断罪処分とか冗談でしかなかったりするのに。


 ガラムは明日への期待を口にする。

 陰湿な仕返しに相応しい邪悪な笑みを浮かべながら。


「明日が楽しみじゃわい……」


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