第94話 火災の原因
王都へ戻った翌日、俺はガラムと共に王城へと来ていた。
スタンピードは一般に公表されておらず、セントリーフの民たちに混乱はなかったけれど、一歩間違えたのなら全滅もあり得たという。
「さあ、王陛下の準備が整ったようじゃぞ」
「マジかぁ……」
俺とガラムは王都を守ったという名目でアルカネスト王陛下への謁見を許されていた。
ガラムの養子になったばかりであって、俺は上位貴族としての対応など何も学んでいないというのに。
「そう肩肘張らんでも良い。王陛下も執務官たちもリオの出生を知っておる。そこまで作法は要求されんはずじゃ」
そうだと良いけど。
謁見の間には王様や大臣だけでなく、執務を担当する貴族たちが勢揃いしているらしい。絶対に俺は場違いであり、白い目で見られるに決まっている。
「無理に喋らんでもよい。ワシに任せておれ」
流石は新パパだな。
早速と頼りがいのある台詞に俺は安堵するしかない。何しろ城門をくぐることは多々あれど、王宮殿に来たのは夜会のとき以来。緊張するなと言う方が間違ってるぜ。
執事に先導され、俺たちは謁見の間へと入っていく。
謁見の間は王国の権威を知らしめるかの如く、煌びやかで荘厳な雰囲気だ。
やべぇよ。既に三滴ほどチビってしまったじゃないか。
「王陛下、謁見する機会を与えてくださりましたこと、身に余る栄誉にございます」
王様が口を開くよりも早くガラム。えっと、聞いてないぞ? 俺は同じように礼をしていたら良いのか?
見よう見まねで礼をする。基本的にガラムが対処してくれるはずと。
「よい。しかし辺境伯、此度は大義であったな? 被害予想を聞かされた折りには背筋が凍ったものだ」
「まったくです。斥候がほぼ全滅とは思いませんでしたね。しかも、その情報がまるで異なっていようとは……」
俺は膝を付き、頭を垂れたままだ。意見を求められるまで、ずっと下を向いていろと言われている。
「推定十万か……。貴殿の活躍がなければ、恐らく王都は瓦礫の山と化したことだろう。褒美を用意した。遠慮なく受け取れ……」
「いや、待ってくだされ。ワシは別に大した働きをしておりません。我が息子リオの活躍があってこそ、王都は救われたのです」
待て……。
俺の話は良い。気を遣ってくれているのだろうけど、生憎と迷惑でしかないって。
その話をしたら、俺は王様と会話しなくちゃならなくなるのだから。
「ほう、一応は報告に上がっておる。顔を上げよ、リオ……」
ほらぁぁっ!
俺は無作法者なんだから、黙っているだけで良かったのに。
話をすると絶対に評価が下がってしまうって。
「あ、はい……。王陛下様……」
「うむ、いい男だな? 先日はソフィアが大騒ぎしておった。リオという婚約者を見つけたのだと」
あ、これヤバいやつじゃね?
ソフィア姫殿下は俺のことを王様に話してしまったらしい。
「滅相もない! 俺は姫様に相応しい男ではありません」
「謙虚なことだな? あれでソフィアはなかなか見る目がある。実際に其方はスタンピードを食い止めたそうじゃな? どうやったのか言ってみせよ」
心臓が破裂しそうなほど脈打っている。
ソフィア様のせいだ。俺は自分の功績を告げるだけでも大変だというのに、彼女との関係をそれとなく拒否していかねばならない。
「畏れ多いことです。まあしかし、俺は死ぬつもりだったのです。だから、上空からではなく、地上へと降りて魔力がある限り、魔法を撃ち続けるだけでした」
「類い希なランクのフレイムを操るそうじゃな? それでスタンピードを殲滅したのか?」
俺はチラリとガラムに視線をやる。
全てを伝えて良いのかどうか。頷くガラムを見る限り、王様には真相を話しておくべきなのだろう。
「いえ、フレイムでは殲滅できませんでしたので、ヒートストームという魔法を唱えました」
俺の発言に謁見の間が騒々しくなる。
恐らくガラムの認識と同じなのだろう。フレイムとヒートストームを同列に見ているのなら、違いが分からなかったはずだ。
「ヒートストームだと? 特に変化はないだろう?」
「いえ、まるで異なります。フレイムの効果範囲は王宮殿ほどですが、ヒートストームの効果範囲は王都セントリーフよりも遥かに広いです」
一層ざわめき立つ。実際に見ていないのなら、信じられないだろうな。なお且つ、俺はそれを証明できないし。
「王都よりも広いというのか!?」
やべぇ、王様を怒らせてしまったかな?
俺はヒートストームの説明まですべきではなかったのかもしれない。
ここで俺に助け船が入った。
手を挙げたのは玉座の下にいた人。恐らくは大臣様だと思う。
「陛下、王都の北側は現在も広範囲が燃え続けていると連絡が入っております」
ああ、それそれ。俺の証言を信じてもらうためには火災を見てもらうしかない。
しかしながら、俺の期待とは異なる方向で証言が続いていた。
「火災の原因はリオ・ウェイルであると思われます」
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