第92話 いや、それは……
「魔王を討ちし勇者もまた、元はパラディンであったらしい」
いやいやいや、ちょっと待てよ。
一緒にすんなって。俺は僧侶からパラディンに昇格しただけで、勇者はパラディンから昇格したんだろ?
まるで話が違う。スタート地点が異なるのだからな。
「勇者は最初からパラディンだったんだろ? 俺とは違うよ……」
「そこまでは伝わっていない。伝記に記される内容ではパラディンから勇者に昇格したのだとされておる」
どうしても俺を勇者にしたいってのか?
でも、生憎と俺にはまだ反論があるっての。
「現世には既に勇者がいるだろう? ヴァルノス帝国に勇者がいたはずだ」
グレイス侯爵が現実に雇ったんだ。
勇者を呼び寄せて、レインボーホーンラビットを狩るように命じたはず。
「帝国の勇者が女神の声を聞けるのかどうか分からん。しかし、リオは聞いたはずじゃ。ことあるごとに通知してくれるのは女神の寵愛があってこそ……」
知らねぇよ……。
俺はただのリオであって、聖地母神エルシリア様の使徒じゃないって。
そうだよな? 俺は別に世界を救うなんて使命を持っていないよな?
「リオ、お前はこの先に、何らかの使命を下される可能性がある。かつての勇者も魔王討伐を願われたそうじゃ」
「魔王が復活するとか言うなよ?」
「それは分からん。まあしかし、魔王は既に滅びておる。女神エルシリア様が懸念しているものがあるとすれば、魔王の残滓に他ならんじゃろうな」
魔王の残滓って、暗黒素とか言ってたやつか。北にいた黒竜が目覚めたとかいうの。
「黒竜を討てというのか……?」
「いや、黒竜こそ帝国の勇者が持つ使命だと思う。女神様は次なる災禍を予期されているのかもしれん」
恐ろしいことを言うなって。
黒竜が現れただけで、何万という魔物が逃げ出したんだぞ?
次なる災禍が起きたのなら、世界はどうなってしまうんだよ。
「帝国の勇者は死ぬのか?」
俺の疑問は一つだった。
もし仮に俺が次代の勇者として選定されようとしているのなら、現状の勇者はどうなってしまうのか。
代替わりなんて馬鹿なことが起きようとしているのかもしれないって。
「それは分からん。じゃが、別々の使命を持つ勇者が存在してもおかしくはない。しかし、女神様が次を見据えているならば、帝国の勇者は長くないのかもしれんの」
あくまで推論であったけれど、ガラムは俺と同じ意見みたいだ。
帝国の勇者では遂げられない難題。それに対処し始めていると考えられたんだ。
「俺はまだ勇者じゃない……」
ガラムの妙な話のせいで確定した感じになっていたけれど、現状の俺はパラディン。僧侶を卒業して前衛もこなせるジョブに昇格しただけだ。
「うむ。使命はそのときが来たのなら明確になるじゃろう。これからも精進していけばいい。今から気負うことなどないのじゃ」
ガラムの中では一定の結末があるみたいだ。でも、俺はそのときが来るまで、ただのリオであろうと思う。
女神様の声といっても通知でしかないし、世界には帝国の勇者が存在しているのだから。
とまあ、俺とガラムはそんな結論に至っていたんだ。だけど、この場にいた一人は俺に気を遣うことなく、言葉を発している。
「リオ、勇者様になるのね!!」
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