第89話 気のせい
「でも、飲ませる道具があるのですよね……」
え? なにそれ? 聞いてない……。
瞬時に私は耳まで真っ赤にしていました。
騙された! 私はガラム様にからかわれたんだ!
「酷いです! ガラム様!」
「いやいや、流石に魔力切れで昏倒しておるとは思わないじゃろ? ワシは持ってきておらんわい」
絶対に嘘。引き返す時間とか惜しんでいたのだから、あらゆる場面を想定していたはずだわ。
「卑怯ですわ! 私に恥ずかしい真似をさせるなんて!」
「ふはは、割と乗り気だったじゃないか? お似合いじゃぞ?」
お似合いと言われた私は顔を真っ赤に染める。
ううぅ……。まるで同意したみたいじゃない。私は自分の気持ちに気付いたけど、まだ公然と宣言するつもりもなかったのに。
「うっ……。うぅぁ……」
えっ!?
騒いでいたからでしょうか。リオが目を覚ましたみたい。
「リオ! リオ!!」
懸命に呼びかけます。
既に傷はハイヒールにて治療されており、現状の症状は魔力切れ。だというのに、私は一秒でも早くリオの声を聞きたかった。
「エレナ……?」
「っ!?」
ようやく聞いた彼の声。意図せず私は涙していました。
今まで生きてきた中で、こんなにも嬉しいと思ったことはありません。
たった一時間離れていただけなのに、何十年と生き別れた末に再会したかのようでした。
「リオ!」
秘めたる感情が急かすままに、私は再び唇を重ねていました。
もう感情を抑えきれない。こうすることでしか私は落ち着けなかったのよ。
「リオ! リオオォオオ!」
どうしよう。涙が止まらない。
キスしたせいで、余計に感情が震えるだなんて考えもしませんでした。
「嬢ちゃん、あとは戻ってからにせい。この炎では休んでもいられん。飛び火してはかなわぬ」
そういえば、そうでした。
私たちの周囲は真っ白な炎が燃え続けていたのです。何を燃料としているのか、一向に収まる気配がありません。
「どうやって鎮火させるのでしょうか?」
「流石にこの範囲を鎮火させるのは無理じゃ。王都に飛び火せぬよう人員総出で対処するしかないな」
「水属性と氷属性の使い手を集めましょう」
空から見る限り、延々と地平線の先まで燃えていたように思います。流石にちまちまと消していたのでは火の手に敵うはずもないか。
「リオ、立てる?」
「エレナ……今キスした?」
リオは朦朧としているのか、今し方のキスをよく覚えていないみたい。
失礼しちゃうわ。だけど、好都合でもあるかな。
私はリオに告白されたあと、承諾したいの。私から先に気持ちを伝えるなんてことはしないわ。
だから、少しばかり視線を外し、私は彼に言うのです。
「気のせいよ――」
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