第88話 最低な後出し
「口移しで飲ませるしかないの……」
ちょちょ、待って! 口移しって、キスよりも凄くない?
それを私にしろっていうのかしら?
「わわわ、私は未婚の女性ですよ!?」
流石に二つ返事で受諾できません。婚約者がいないのは好都合でもありますが、生憎と私はそんなに軽い女じゃない。
「男にされるより、リオも女性が良いと思ったのじゃが。ならワシがしようか……」
「やります! 私にお任せください!」
即座に手を挙げてしまった……。
いやだって、私は今後もリオとキスするかもしれないの。そのときガラム様の顔を思い出してしまうなんて嫌じゃない?
「ほう、やってくれるか? リオも喜ぶじゃろう……」
言って私は魔力ポーションを手渡されている。
えっと、勢いで手を挙げちゃったけど、二人が見ている前で私は口移しで飲ませなきゃいけないの?
せめて、よそ見してくれたら助かるのだけど、生憎とガン見なのよね。やはりガラム様の性癖は完全に壊れているみたい。
だけど、女は度胸よ。モニカみたいにテラスでするよりマシなはずだわ。
私はポーションを口に含み、抱きかかえたリオに顔を近づけていく。
やだ、緊張してきちゃった。
(リオ……)
今も意識を失ったままのリオを見ると、やらなきゃいけないと思う。
これは別に破廉恥な行為じゃなくて、医療行為よ。このままだとリオが火傷を負ってしまうから、意識を戻してもらわなきゃいけないだけ。
(いくわよ……)
私はリオと唇を重ねた。
初めて自らキスしている。不意打ちされた夜とは明らかに意味合いが異なっています。
更には口に含んだ魔力ポーションをゆっくりと流し込む。咽せさせてはいけない。気管に入るとリオが肺炎になっちゃうから。
「まだ半分以上ある……」
魔力ポーションの小瓶はかなり小さいけれど、口に含ませて飲ませるには複数回必要となります。
既に恥ずかしさはないのだし、私はリオとキスするだけ。
(これが初めてのキスじゃないのが救いかしら?)
あの夜を思い出すたびに恥ずかしくなる。
月明かりが届くテラスで私たちは唇を重ねた。
まるで物語の一節みたい。情緒的で情熱的。若い男女であったことでしょう。
(隣でしてるモニカがいなければだけど)
その思い出には友人のモニカがつきまとう。美しい思い出を穢す我が友人の姿。一生あの光景がワンセットになるのかもしれない。
「終わりました……」
三回目の口移しにて魔力ポーションは空になった。
リオも咽せることなく寝息を立てている。恐らく私は成功したのだと思う。
「お見事です! 意識を失った者に飲ませるのは難しいのですが……」
テッド師団長様が拍手をしてくれる。
どうやら私はやり遂げたみたい。私はリオを救ったんだ。
ところが、二人はなぜか笑っている。その理由が口にされるまで私は英雄気取りであったというのに。
「でも、飲ませる道具があるのですよね……」




