第86話 白夜に
俺はヒートストームを唱えていた。
フレイムとは異なり、眼前には超巨大な魔法陣が出現している。それだけで、ただ事ではないことが明らかとなっていた。
「マジ……?」
身体中の魔力が手の平に集中している。
圧縮された魔力で、今にも腕が爆発しそうだ。てか、既に爪の隙間から血が噴き出してるじゃん!?
「マズい……」
賭に出た俺だったけど、正直に失敗したかもしれん。
発動前に腕が吹っ飛ぶなんて考えもしなかったんだ。俺の身体が術式に耐えられないなんて思わねぇって!
「うおおおおおお!!」
左手で右腕を支え、俺は術式の発動を待つ。こんな今も指先から飛び散る血が俺の顔へと降り注いでいる。
一瞬のあと。もう限界かと感じた瞬間のことだ。
詰まりきっていたものが抜ける感触。圧縮された魔力が一度に解放されていた。
「っぅ!?」
世界が一変していた。よもや、このような結末になるなど考えていない。
俺が放ったヒートストームは魔物を焼くどころか、闇夜でさえも焼き払っていた。
視界に広がるは真っ白な景色。巨大な魔方陣の向こう側には純白の世界が広がっていたんだ。
「やべぇ……」
どうやら俺は賭に負けたらしい。
たった一発撃っただけだというのに、意識が朦朧としていたんだ。
こんなことなら、フレイムに賭けるべきだった。昏倒していたのでは魔物たちに殺されるだけだもんな……。
気力で堪えようとしたけれど、生憎と俺の意識は長く続かない。
俺はゆっくりと前のめりに倒れ込んだ。
純白の輝きに満ちた世界へと。
◇ ◇ ◇
夜が明けたのかと思うくらいの輝き。
全員が戸惑っていましたが、その中でも物事は進んでいる。
準備が整ったのです。魔力ポーション六百個を掻き集めたテッド様がワイバーンを連れて戻られたからでした。
「ガラム閣下、この現象は魔物の仕業でしょうか?」
「分からぬ。既に何が起きても不思議ではないのじゃ。最悪の場合は黒竜が飛来したと考えるべき……」
黒竜? よく分からないけれど、それがこの状況を生み出しているのでしょうか。
魔物たちは黒竜から逃げ惑い、我を失っているのかもしれない。
「急ぎましょう! リオが待っています!」
怖じ気づいてなどいられません。
リオはこんな今も一人で戦っている。黒竜とかいう魔物が現れているのなら、私たちも急ぐべきだわ。
「そうじゃな。エレナはテッドの後ろに乗せてもらいなさい」
どうしてか私はテッドさんの後ろだという。
ひょっとして、ガラム様は……。
「嫌です! 私は戦うと決めたの。テッドさんは途中で離脱するはずです」
絶対にそうとしか思えない。
テッドさんが最初から戦力であれば、リオだけを連れていくはずがないもの。あの大群に対処する術がテッドさんにはないはずです。
「妙に勘が鋭いの? 悪いことは言わん。遠くから見ておきなさい」
「私はガラム様の後ろに乗るわ。リオと一緒に戦います!」
駄々をこねるように言いました。
反論があるかと思いましたけど、時間がないのはガラム様も分かっていらっしゃる。小さく頷いて、私を急かすのでした。
「なら早う乗れ。向かう先は地獄じゃ……」
「どこだって行くわ。剣聖は伊達じゃないことを見せてあげます」
私の決意にガラム様は笑っている。
そのまま私の手を引き上げてくれ、ようやくワイバーンの鞍へと跨がっていました。
リオ、待っててね。
今すぐに向かうから……。
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