第85話 超常現象
私たちは王都へ戻ってきました。
魔道士団の詰め所へとワイバーンを下ろし、ガラム様は部下にありったけの魔力ポーションを詰め込めと指示しています。
「ガラム様、私も戦いたい」
「なぬ? 本気か? ジョブが剣聖とはいえ、レベルを上げておらんじゃろ!?」
レベルって何?
よく分からないけど、成人する前に騎士団から推薦状が届いたのよ。
剣聖がそれだけ希有なジョブであると知っているし、私は戦えると思う。
「大丈夫です。でも今はナイフしかないので、長剣を用意してください」
「駄目じゃ! 貴殿は伯爵令嬢なのじゃぞ? おいそれと連れ出せん。あとで問題となるのじゃからな……」
「私は三女ですから問題ありません。なんなら一筆したためます。リオが命を賭けて戦っているのに、祈るだけだなんて嫌なんです!」
早く戻らないと。
リオはたぶん限界だもん。地上を私とリオが担当して、ガラム様が上空から魔法を撃ってくれたら戦えると思うの。
「覚悟はできておるのじゃな?」
「もちろんです! そもそも私は助けてもらわなければ死んでいました。この命を世界とリオのために使いたいのです」
リオが現れるまで、私は死を覚悟してた。
迫る影は次第に大きくなっていたし、私はドレスだけでなくハイヒールで駆けていたのです。
「死ぬときはリオと一緒がいい……」
気付いた本心。もしもリオが天に召されるというのなら、私は付き合わなきゃ。
初めてのデートが黄泉路だなんて意味不明だけど、ずっと良い未来だわ。
私だけが生き残ったとして、そのあとの人生には後悔しかないはずだもの。
「ならば剣を用意させよう。王都を守り抜くぞ」
「承知しました!」
説得は難航するかと思われましたが、意外と早く受け入れられました。
生かされた命だってことは閣下も分かっているだろうし、今は一人でも戦力が必要なんだもの。
「しかしガラム様、軍はあの魔物たちを想定していなかったのですか? どこから来たのか知りませんけれど」
魔力ポーションを掻き集めている時間に質問を加える。
地平線の彼方まで続くような魔物の大軍を予期できなかったのかと。
「ここまでとは思わなかったのじゃ。斥候が持ち帰った情報によると一万以上。よって、リオと二人で戦ったのなら、大半を処理できると考えておった」
まあ、分からないでもないわ。
リオの魔法は凄かったもの。テロリストとして捕まってしまったことを思い出してしまうくらいに。かなり広い範囲に炎が拡散していました。
「見積もりが甘すぎたのじゃ。あれは十万規模じゃ。とてもじゃないが、一回の出撃で何とかできるものじゃない」
「十万!? 何が起きたとすれば、そのようなことになるのです!?」
「詳しくは話せん。見たままじゃよ。王国は魔物の侵攻に遭っておる。放っておくとあれは王都を廃墟としてしまうじゃろう」
それくらい私にも予想できます。暗がりでさえ、異様な数がいると分かりましたし。
もしも昼間であれば、正気でいられない数が見えたことでしょう。王都が進路にあるのなら、街門とて長く持たないと思われます。
「ガラム閣下、詰め所には二百本しかありませんでした!」
「駄目じゃ! 最低でも五百本を用意しろ! 一々、引き返している暇もないのじゃ! 次はテッドもついてこい。ワイバーンをもう一騎用意しておくのじゃ」
報告に来た兵を一括するガラム様。リオだけを残しているのです。早く戻りたいと考えていても、魔力ポーションをその都度補給するのなら、往復の時間が無駄になってしまう。
「まったく……。詰め所にないのなら、他を探そうという発想がないのじゃなぁ。直に魔物を見ていないと温度差がでるのぉ」
「その通りですね。私だって話を聞くだけなら、そこまで危機感を持っていないと思います」
待っている間に、私たちはそんな会話をしていました。
焦れったい時間。だけど、どうしようもない。準備が整うまで、リオの元には戻れないのですから。
そんな折り、夜の帳が一度に上がる。
どうしてか目もくらむほどに空が明るく輝いたのです。
「何……これ……?」
まるで昼間であるかのよう。
既に深夜であり、街を照らすものは月明かりしかなかったというのに。
「何じゃ……これは……?」
ガラム様にも状況が飲み込めないみたい。何でも知っているような彼にも不可解な事象であったようです。
突如として起きた超常現象に私たちは困惑するだけでした。
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