第008話 告白
「リオ!? 本当に臭くない!?」
「臭くないよ……」
寧ろ、良い匂いだ。
どちらかというと俺の方が臭いに決まっている。血まみれなんだし、ずっと野宿だったのだから。
「そろそろ……離してくれないかな……?」
ずっとこうしていたいというのに、エレナはそんなことを言う。
しかし、俺はまだエレナを抱きしめたままだ。あわよくば、俺の気持ちに気付いてくれるようにと。
「エ、エレナ……」
もう告白っきゃねぇ。
ここで躊躇っていたのでは永遠に俺は金策を続けるしかない。エレナの製作したゴミの処理係として、いつまでも彼女の道楽に付き合うしかなくなる。
「はは、はひっ!?」
上手い具合にエレナも動揺している。どうやら、いつもと違う雰囲気を感じ取ってくれたのかもしれない。
だからこそ、彼女は身体を強ばらせながらも、俺をジッと見つめているのだ。
「俺はずっとエレナと一緒にいたい……」
遂に俺は成し遂げた。俺はエレナに告白できたんだ。
俺にはエレナしかいない。人生の終わりまで俺はエレナと一緒にいたいと思う。
「本当!? 嬉しいわ!」
返答を待つ時間は緊張していたものの、意外にもエレナは好反応を示した。
やった。やったぜ、父上! 残念だったな、兄上!
俺は伯爵家のご令嬢と交際できるんだ。五男坊だったけど、成り上がりじゃねぇかよ。
ところが、続けられた話は俺の想像と異なる。
「私の武具をずっと使いたいだなんて、嬉しいわ!」
いや、違うって。
どう捉えたら、そんな話になんの?
「これからも腕によりをかけて作るわ! リオが白銀級冒険者になれるように、私は頑張るから!」
白銀級冒険者だなんて、世界を見渡しても五本の指に収まる数しかいないって。
間違っても、最弱と呼ばれる俺が目指すべき頂じゃねぇよ。
「えっと……。頼むな……」
まあそれで、俺は日和ってしまった。
続けざまに好きだとか愛しているとか言えたなら良かったんだけど、自身の言葉を説明するなんて恥ずかしすぎんよ……。
「じゃあさ、生産者ギルドに良質な鉱石が纏まって売りに出されてたの。それがたった金貨一枚なのよ!」
瞬時に嫌な予感がした。
まあでも、気のせいじゃないな。たった金貨一枚。それって俺の全財産じゃん?
「ねぇ、リオぉぉっ。私、良質な鉱石が欲しいのぉ……」
ここでエレナの必殺技である上目遣いが発動。更には俺の背中に手を回し、ハニートラップにも似た攻撃が繰り出されている。
これは詰んだ。絶対に終わった。
いつもこの単純な手で俺は丸め込まれるのだからな。
「えっと……」
「お願い、リオぉぉ。私のためだと思って……」
既に俺の頭からは湯気が出ている。密着した上に艶めかしく見つめられたんじゃ、理性とか思考能力とかどこかにいっちまうって。
「俺に任せろ。それを買ってやる!」
「本当!? リオ、大好き!」
やばい。好きって言われた。それって両想いってことじゃん?
他人からすれば、本当に単純で大馬鹿者に見えたことだろう。だがしかし、当事者たる俺はこのまま死んでしまっても構わないくらいに浮かれているんだ。
何しろ好きよりも強大な大好きなんだぜ? これ以上の幸せがあるはずもねぇよ。
「じじ、実はエレナに新しい武器を作って欲しいんだ!」
俺はここで切り出している。
せっかく有り金を吐き出すのだから、ずっと抱き合ったままいたい。会話を終わらせてしまうよりも、できる限り長引かせないとな。
「良いわよ! 良質な鉱石を買ってくれるんだもの!」
エレナは好反応。やはり彼女は初めてのオーダーメイドを喜んでいるみたいだ。
「何が良い? 片手剣? 大剣? それともエクスカリバー!?」
いやいや、俺は打撃得意というスキルを獲得したんだ。よって、俺が求めるものは刃物なんかじゃない。
「実は大槌を作って欲しいんだ。打撃得意ってスキルを手に入れたから……」
まあそれで俺は二つ返事で了承されると考えていた。何しろ俺の金で良質な鉱石を買うのだ。普通なら俺に選択権があると考えるだろ?
ところが、俺の期待も虚しく、エレナは思うような返答をしない。
「嫌よ――」