第80話 後がない状況に
「ちくしょう!!」
何時間が経過していただろう。月の位置から考えると、六時間ばかりが過ぎていたのかもしれない。
まあそれで、集中力を欠き始めている。しかし、魔物の猛攻は収まることなく続き、一息つく暇なんてあるはずもなかった。
「明らかに魔物が増えた……」
フレイムで一掃したとしても、直ぐさま押し寄せてくる。かといって、魔物が過剰に増えたなんて理由ではない。明確に上空からの援護が減っていたからだ。
「ガラムの奴、まさか魔力ポーション切れか?」
上空に視線を向けると、稲妻が見えた。しかし、それは前方へと撃ち出されていたんだ。
月明かりに、影が浮かぶ。よく見るとそれは魔物の影。どうやら飛来する魔物に襲われているらしい。
「あっちはあっちでピンチってか。しっかりエレナは守ってくれよ……」
魔力切れでないのなら構わない。俺は俺で抗うだけだ。
フレイムを撃ってはポーションにて回復。それを続けていくしかない。
「フレイム!」
もう千回は唱えてんじゃね?
けれど、俺の幸運は作用しない。いつもの調子で昇格とかしろよ? 何千という魔物を一度に殲滅できるようにしてくれって。
焦っても現状は好転しない。いつ訪れるやもしれない魔力ポーション切れの恐怖と戦い続けるしかなかった。
「クソッ、また目眩か……」
魔力ポーションは飲みすぎると身体に悪いって聞いていたのだが、魔力切れによる昏倒は確実な死だ。身体に悪影響があったとして、俺は飲み続けるしかない。
「!?」
マジックポーチに手を突っ込んだ俺は気付いていた。
腰にぶら下げたそれに手を突っ込めば、直ぐさま小瓶が手に取れる。しかし、此度は布に手が触れていたんだ。
「もう……ないのか……?」
まさぐるようにすると、小瓶の感触がある。しかし、一本だけのよう。幾ら探してみても、他に小瓶は見つからない。
「百本だったのかな……?」
千回くらいは唱えたと思う。従って用意されたのは百本に違いない。
きっとマジックポーチに入りきる量が百本であり、なくなる度に補給する予定だったはず。
「とりあえず、もう魔法は使えないな」
あと十回。無理をすれば十一回唱えられるかもしれない。だが、最後の一回は死に直結するものだ。最後の最後まで足掻くなら、それを唱えてはならなかった。
「お守り頼みか……」
残りのフレイムを最大限の効果で使うべく、魔物はできる限り引き寄せて撃つしかない。そのためにはルミアが持たせてくれた長剣を使うしかなくなる。
「やるっきゃねぇ!」
俺は剣を抜いた。
若干、トラウマでもあったけれど、エレナの長剣とは異なり、スッと抜けただけでなく折れることも粉々になることもない。
「名匠の一振りだ。俺はこれで生き残ってやる!」
開き直りも必要だろ? 俺が生存する手段があるのなら、それは魔物を殲滅した場合だけ。ワイバーンに三人乗れないというのだから、俺は戦闘を続けるしか生き残れない。
「来やがれ! 魔物共!」
これより人生最大のパーティーを開催しようか。
俺は楽しむことにするぜ。シャンパンを掛け合う収穫祭のように、血飛沫舞う中で歓喜の声を上げるだけだ。
「さあ、始めようか!!」




