第79話 もう一度だけでも
私は呆然としていました。
あり得ない魔物の数に。私を生かそうと取り残されたリオの行動に。
「ガラム様、リオは無事なのでしょうか!?」
問わずにいられません。無情にもリオを置いて上空へと昇ってしまった。
私は困惑するだけであり、状況を飲み込めていません。
「炎が見えておる間は問題ない……」
端的な返答があった。
こんな今もガラム様は魔法を撃ち放っており、ちゃんとした説明を済ませてくれません。
「どうしてリオを置き去りに……」
ポツリと呟いた私の声。返答など期待していませんでしたが、ガラム様は答えてくれました。
「それはリオの一存。ワイバーンは三人も乗せられんのじゃ。お前さんを救いたいと願ってきた。飛び降りるとまで言われたワシは認めぬわけにはいかなんだ……」
何ということでしょう。
私が黙って王都を離れたから?
魔物被害が起きるとも知らずに、勝手な行動をしたから?
「リオは……死にませんよね?」
とても怖い。返答を聞くのが恐ろしかった。
期待する返事を聞けない気がして。
私は返答を聞いた瞬間にショックで死んでしまうかもしれない。
「無理じゃ……」
小さく返されている。
無理ってなに? 上空から見た感じなら、リオの魔法は魔物を蹂躙していたのに。
戸惑うだけの私をよそに、二人は魔法による攻撃を続けています。
「サンダーボルト!!」
二人の魔法は凄まじい威力を発揮していました。
眼下に見える炎は一帯を焼き尽くし、上空から降り注ぐ無数の雷は漏れなく魔物に突き刺さっていたのです。
「きっと大丈夫……よね?」
思えば私は逃げていました。リオの気持ち。リオの望みから。
こんなことなら、テラスで好きにさせてあげたら良かったのかも。もう会えないと分かっていたのなら、悩む必要なんてなかったはず。
眼下に拡がる炎。それはリオが存在する証し。私は意図せず呟いていました。
「好きよ……」
正直に自分の気持ちが良く分かっていませんでしたが、自然と口を衝いたその言葉は間違っても嘘じゃないと思う。
「嫌いなら、おねだりしないもの……」
毎日やって来るリオ。もし仮に嫌いだと感じたのなら、追い返していたはず。だけど、私は彼の想いを利用するように商品を買ってもらったの。
「好きだからか……」
今も夢はありました。だけど、それはそれであって、リオはリオみたい。
個人として女として、私はリオを男性として見ている。
「もう一度、お話ししたいよ……」
楽しかった思い出。それらは過去になりつつある。
でも、私は彼の無事を祈るだけだわ。この戦闘が早く終わるようにと。
リオ、頑張って……。




