表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/232

第78話 俺はここにいる

 二十分ほどが経過しただろうか。


 もうハッキリと見えている。未だスピードを落とすことなく向かって来る魔物たち。背筋がゾワっとするのは俺じゃなくても同じことだろう。


「やべぇ……」


 ファイアードラゴンやワイルダーピッグのときもビビってたけど、あのときは共に単体が相手。押し寄せる波の如く、向かってくる状況だなんて頭がおかしくなってしまいそうだ。


「フレイムの攻撃範囲ならそろそろか……」


 徹底抗戦だ。魔法は連発できたけれど、魔力を回復する時間が必要。攻め込まれるよりも先手先手を取っていくべき。


「フレイム!!」


 イメージは無色。説明では一番熱を帯びる色だ。まあしかし、無色だなんてイメージは難しい。何とも言えない白い炎が大地を焼き尽くしていた。


「よし……」


 先頭を走っていた一団は消し炭となったらしい。


 とりあえず。撃ち続けることができたのなら、俺にもまだ勝機がありそうだ。


 程なく上空からも雷が落ちていく。

 それはガラムの上位魔法に違いない。雷氷の大賢者と呼ばれる彼の魔法であるはずだ。


「意外と、いけんじゃね?」


 爆ぜるような幾つもの雷撃が俺の心を支えている。

 まだ諦める場合じゃないと。生き残る可能性を見いだすべきだろうと。


「フレイム!」


 ガラムが奥側を担当し、俺が手前側。空と陸で上手い具合に役割分担ができている。


 加えて、俺たち二人の魔法は圧倒的だった。近寄ることすら許さずに、迫り来る魔物を殲滅できていたんだ。


「きっと大丈夫だ……」


 今のところ足の速い魔物ばかり。それらは得てして小さな魔物だ。フレイムや雷撃は一発で何十体もの魔物を葬りさって、後続が到着するまでの時間を待つ余裕すらあった。


「何本目だ?」


 マジックポーチから魔力ポーションを取り出す。目眩がしてきたら飲むサインだ。それ以上撃つと昏倒してしまうので、平均して九発が飲む目安となる。


「詰め込んできたとは話してたけど……」


 もう既に百回くらいはフレイムを唱えている。足下に転がる空き瓶を見ると大凡それくらい。ポーションの数が足りるのか分からない状況になってきた。


「全然、魔物の勢いが収まらない……」


 呆然としてしまう。既に日が落ちて久しい。

 まあそれで、遠くまで見通せないのだけど、今も俺の眼前には新たな群れが現れ、自殺願望なのか焼かれるためだけに襲い来る。


「フレイム!」


 俺は魔力ポーションが尽きることについて考え始めていた。


 それは生き残る望みを絶つことだ。ポーションが切れてしまえば、俺は戦えない。ルミアに持たされた長剣一本で生き残れるはずもなかった。


「クソッタレがっ!!」


 一発撃ち放つごとに焦りを覚えている。迫り来る影は徐々に大きくなっていたし、一撃で倒せない場合はどう対処すれば良いのか分からなくなる。


「本数くらい教えておいてくれよ……」


 聞いていたら聞いていたで焦ったに違いない。だけど、リミットが不明な現状ほど不安を掻き立てるものはなかった。


「どうして俺はこうも綱渡り人生なんだ?」


 計画的に成し遂げたものなど一つもない。

 強いて言えば鍛冶の修行であったけれど、それだってまだ完成させたことがない。中途半端な俺らしい結果しか残っていなかった。


 折れそうな心を繋ぎ止めていたのはエレナの存在だ。

 上空から彼女が見ている。真っ暗で何も見えていないかもしれないけれど、俺が放つフレイムの炎だけは絶対に見えているはずだ。


 だとすれば、俺は炎によって生存を訴え続けるだけ。


 俺はここにいるのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ