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第77話 わけは後で

 ワイバーンが地上へと降り、俺はその背中から飛び降りていた。


 絶句したエレナは足を止め、唖然と俺たちを見ている。


「リオ……?」


 信じられなかっただろうな。

 俺だって目を疑ったよ。王都から離れた街道にエレナがいるなんてさ。


 エレナは呆然としたあと、何度も頭を振りながら駆け出す。

 安堵感からか涙を零しながら、エレナは俺の胸へと飛び込んでいた。


「リオォォオオオォッ!!!」


 とても心細かったのだろうな。

 腕の中にいるエレナは震えていたんだ。


 聞きたいことは山ほどあったけれど、今は時間がない。

 ずっと抱き合っていたかったけれど、今は避難が先だ。


「エレナ、抱き合うのは嬉しいのだけど、早くワイバーンに乗ってくれ」


「私を助けに来てくれたの!?」


 会話が成立しない。動揺する彼女は自身の疑問を解消しようとするだけだ。


「残念ながら違う。俺たちは魔物の侵攻に対処するために来た。エレナを見つけたのは偶然だよ」


 物語の王子様ならエレナを探していたと答えるだろう。


 だけど、取り繕うような嘘は口を衝かない。俺はエレナが王都を離れていることすら知らなかったのだから。


 俺は改めてエレナをきつく抱きしめている。これが最後になるかもしれないと。


「ちょちょ、リオ!? こんなときに!?」


「俺がワイバーンに乗せてやるよ」


 エレナを抱きかかえたことは、ささやかなご褒美だ。

 彼女の匂い、彼女の温もり。天に還ったとして、俺は絶対に忘れないことだろう。


 最後に俺はエレナの頬へキスをしている。


 これは別れの挨拶。旅立つ俺の決意を明確にするものだ。


「リオ……?」


「ガラム、ワイバーンを上昇させろ! 魔物を殲滅させるぞ!」


「承知したのじゃ!」


 バッサバッサと翅を拡げ、ワイバーンがゆっくりと浮上していく。


「ガラム様、まだリオが!?」


「リオ、お主は勇敢なる男じゃ。辺境伯に相応しい。ワシは息子を誇りに思う」


 エレナは状況を把握していない。


 だが、俺はそれで充分だった。俺が取り残された理由を知るや、きっと彼女は取り乱す。今は何も知らずに上空へと向かってくれ。


「達者でな。父さんと呼んだ方がいいか?」


「ああいや、それはまたの機会にしようぞ」


 ガラムとの別れも済んだ。


 何だか笑っちまうな。王都で成り上がる夢を見ていたというのに、盲目的な恋をした俺は一年も経過することなく死ぬことになるだなんて。


 上空へと向かうワイバーンを眺めている。感傷的になってしまうのは仕方のないことだろうな。


「異なる未来とかあったのかね……」


 エレナに出会わなかった世界線。少し考えたけれど、しっくりと来ない。


 やっぱ、俺は愛に猛進する家系なのかもね。エレナがいない世界線など考えられなかった。


「エレナは俺の全てだ……」


 だったら戦うしかねぇわ。彼女のために俺は戦うだけ。


 兄上はお金で済んだけれど、何もない俺はその身を捧げるしかないってことか。


 ようやく戦う覚悟が決まる。


 最後のときまで抗うだけだと……。

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