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第75話 異変

「やるっきゃないな……」


 それ以外の決定は存在しなかった。

 逃げられない状況でやるべきことは多くない。女神様に祈るよりも、火属性魔法を得た俺にはできることがあったんだ。


「感謝するのじゃ。さあ、行こうか。魔力ポーションをマジックポーチに詰め込んである。自分で取り出して飲むのじゃぞ?」


「リオさん、本気でしょうか!?」


 決意が固まったというのに、ルミアは反対であるらしい。


 さりとて、彼女は俺の魔法をよく知らないからな。ただの僧侶で鍛冶職人だとしか考えていないのだろう。


「貴族には貴族の務めがあるんだ。ルミアたちを守ることも、それには含まれている。俺は戦わなきゃいけない」


 呆然と顔を振るルミアだが、彼女は表情を凛々しくすると、カウンターに飾ってあった長剣を俺に手渡した。


「これはお爺ちゃんが打ったものです。売り物ではないのですが、少しは役に立つかと」


 気持ちは嬉しい。俺は剣術など経験ないけれど、お守り代わりとするのは悪くないな。


 ルミアから受け取った長剣をベルトに取り付け、いよいよ準備が整っていた。


「さあ、行こうか」


「うむ、絶対に勝利するのじゃ」


 店の外には大きな翼竜がいた。


 飼い慣らされているらしく、ガラムを見るや甘えたような声を上げる。


「リオは後ろに。直ぐさま出発するぞ!」


 これより俺は死地に赴く。覚悟も不十分なままに、戦闘へと駆り出されていた。


 危機は理解していたけれど、俺はまだ他人事のように考えていたんだ。



 ◇ ◇ ◇



 私は炎の祠へと入ったわけですが、ダンジョンかと思いきや一本道でしかありません。


 正直に肩透かしであって、ナイフを握りながらも安堵の息を吐いていました。


「駆け出し冒険者のリオでも大丈夫だったんだし……」


 ここまで徒歩で一時間。こんなに歩いたのは初めてです。道中に現れた魔物が倒せなければ、引き返すつもりだったのよ。


「まさか一匹も魔物が現れないなんてね」


 聞いていたように、突き当たりに祭壇ありました。

 ここで祈りを捧げると精霊が出てくるのだとか。


「精霊様、私に火属性魔法を授けてください……」


 熱心に祈りを捧げます。まあしかし、何の変化もありません。


 リオ曰く、授かるかどうかは人によるのだとか。せっかく赴いたというのに、これはハズレってことなのかな?


「最悪ぅ。やっぱ馬車を雇えば良かったわ」


 こうなると帰路の一時間がつらいわ。

 収穫なしで帰ることになるなんて考えもしていないんだもの。


「きっと精霊は私の実力に嫉妬しているのね? リオは逆に同情されたはず。やっぱ天才って損な役回りだわ」


 授かれなかったのだから帰るだけよ。


 リオを連れてこなくて本当に良かった。魔物すらいない遺跡のダンジョンで二人っきりだなんて、絶対に約束を果たせと迫るに決まってるもの。


 大した時間を要せず、祠の入り口に繋がる上り階段まで戻っていました。


 溜め息を吐いていると、背後から咽を鳴らすような声が聞こえた。先ほどまでは何もいなかったというのに。


「うそ? 魔物!?」


 魔物は突然に湧くという話を聞いたことがある。

 交配して増える種がいるのは当然のこと、魔素が対流する場所では迷える魂を取り込んで、発生する場合があるのだとか。


「祠の外には結界があるはず!」


 私は階段を駆け上っています。

 炎の祠は精霊が結界を張っていて、魔物が外に漏れ出さない。つまり私は外に出るだけで戦闘から逃れられるのよ。


「とりあえずは安心ね。もう日が暮れるわ。早く王都に戻りましょう」


 南に向かって歩き出そうかというとき、何やら地鳴りのような音を聞く。


「何……?」


 振り返ると、街道の果てに黒い影のようなものが見えたの。

 地平線の彼方に、蠢く何かが見えていたわ。


「あれ……なんなの?」


 よく分からないけど、マズい気がする。


 逃げなくちゃ。一刻も早く街門を潜らなきゃ……。


「魔物の……群れかしら?」


 激しい砂埃を上げるものが行商のキャラバン隊だとは思えません。だとしたら、魔物の群れ。北から南へと向かうものが魔物の暴走なのではないかと。


「やば……」


 私は南に向かって全力で走り出していました。


 ここから王都まで歩いて一時間。走ったなら半時間くらいでしょうか。


 ドレスで来てしまったことを後悔するしかないね。徒歩で一時間という近場なら、そこまでの危機は訪れないと考えていたんだもの。


 全力で走り続けると、直ぐに息が上がる。だけど、地平線に浮かぶ影は確実に大きくなっていたのです。苦しくても走り続けるしかありません。


「助けて……リオ……」


 どうしてかリオの顔が思い浮かぶ。彼は駆け出し冒険者であり、英雄でもなかったというのに。


 必死で走る私はリオのことばかり考えていました。


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