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第74話 覚悟

 どれくらい時間が経っただろう。

 夕飯の時間だとルミアが呼びに来るまで、俺は作業に熱中していたんだ。


「凄い集中力でしたね?」


「まあな。初めて自分一人で作るんだ。やる気に満ちているんだよ」


 手渡されたタオルで顔を拭く。

 すげぇ充実感だ。俺はやはり鍛冶職人に向いているのかもしれない。


 食事に向かおうかというとき、


「失礼するぞ……」


 扉を開いてやって来たのは王城へと戻ったガラムだった。


「何の用だ? 俺は今から晩飯なんだけど」


「すまんが、リオの力を貸して欲しいのじゃ……」


 何だかよく分からないな。俺よりもずっと権力があるのは明らかだし、俺が王城で意見できる立場になんかあるはずもない。


「俺が王城で役に立つことなんかないぞ?」


「ああいや、手続きは既に終わっておる。ワシの頼みは別件なんじゃ」


 何とも掴み所のない返答だが、俺はこのあと知らされている。ただ事ではない事態になっていることを。


「スタンピードが王都に向かっておる」


 その話は聞いていたけど、もうすっかり忘れていた。

 てっきり進路を変えたか、魔物たちが散り散りになったものと考えていたんだ。


「マジで? 俺とガラムで対処するってのか?」


「大半の団員は街門の守護。ワシらは先んじてスタンピードを止める役目じゃ。ワイバーンを用意しておる。上空から撃つだけの仕事になるの」


「俺はワイバーンなんか乗ったことがねぇぞ!?」


 馬であれば実家でも乗っていた。けれど、ワイバーンという翼竜に乗る機会なんて田舎貴族にはない。


「ワシが操舵する。リオは後席に座ってフレイムを撃つだけじゃ。簡単な仕事じゃろ?」


「それなら構わないけど。上空からだと、撃ち漏らしが出るんじゃないか?」


「ある程度は仕方ないの。近衛騎士団まで総出で守護に当たる。彼らを信じるだけじゃて」


 剣で戦う人たちのことを考えると、上空からフレイムを撃つだけだなんて優遇されすぎだろうな。まあしかし、俺は正規兵でもないのだし、特等席であっても不思議ではない。


「しっかし、ガラムは雷氷の大賢者だろ? 一人で何とかできんものか?」


 俺は作業の手を止められた感がして、少し嫌味を加えて答える。


 殲滅作戦でないのなら、ガラム一人でも可能だろうと。


「いや、無理じゃ。事前の予測とは規模が異なりすぎている。とてもワシ一人では対処などできんよ」


 俺は聞かされていた。英雄ともいえるガラムがなぜに俺の助力を願うのか。

 それには明確な理由があったんだ。


「スタンピードは一万規模……」


 えっと、百でも千でもなく一万?


 それを二人で倒すっての?


「一人頭、五千もあるじゃねぇかよ!?」


 全然、想定していない数だった。


 百くらいの暴走だと勝手に思っていたんだ。けれど、ガラムが足を運んでまで頼む状況は予測できない事態になったのだと察知できた。


「小国が幾つも滅びておる。そのまま真っ直ぐに南下しておるのじゃ。斥候によると魔物たちは落ち着くことなく狂乱状態らしい。戦争に匹敵する軍勢が相手では、王都であろうと破壊し尽くされてしまうじゃろう。避難を促す時間はもうないのじゃ」


 俺を呼びに来た理由。考えるまでもない。


 ガラムは俺を戦力として見ている。僧侶でしかない俺に王都を救う力があると。


「リオ、悩む時間はないのじゃ。もう直ぐそこまでスタンピードは迫っておる。無理にとは言わんが、どうか手を貸してくれい」


 藁をも掴みたいほどに切羽詰まった状況だろうな。


 王都が壊滅的なダメージを受けてはどうしようもない。避難すらできないのなら、俺は手を貸すべきだろうな。


 唇を結び、俺はガラムに返答している。


「やるっきゃねぇな――」

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