第72話 エレナは……
王城での夜会から一週間が過ぎていました。
ようやく完成した高溶解炉で、私は超上質な鉱石を溶かそうとしています。
けれど、今までのように簡単ではありません。熱が足りないのか、少しも溶けなかったのです。
「どうしよ……。火属性魔法がないと難しいわ」
私は魔法なんか持っていません。
ジョブは剣聖でしたけれど、何の魔法も覚えていない。剣聖は魔法剣士の上位ジョブだと聞いたことがあったというのに。
「リオに頼むのもなぁ。リオはやる気満々だし。主にアッチ方面だけ……」
不意打ちで唇を奪われたこと。私が抵抗しなければ、きっと最後までしたはずだわ。
そのために人気のないテラスに連れて行ったのだし。
「モニカもしてたし……」
今思い出しても恥ずかしい。
モニカに一部始終を聞いた私の頭はパンク寸前でした。
何と彼女は侯爵家の次男坊を捕まえたらしく、あのあと二回もしてしまったみたい。加えて、次に会う約束までしたのだとか。
「モニカって、婚約破棄でもする気かしら? 一夜限りの関係じゃなくなるって、乗り換えるつもりだよね?」
侯爵家の次男坊が相手であれば、下位貴族の出番はないと思う。
相手が本気であるのなら、瞬く間に婚約破棄となるでしょうね。
「私も受け入れるべきだったのかなぁ」
本当の気持ちが良く分からない。だけど、ソフィア姫殿下がリオに迫ったとき、私は嫌だと感じた。
ガラム様が間に入ってくれたときには、本当に安堵したのを覚えている。
「私はリオが好き?」
考えて直ぐに頭を振る。
私の夢は英雄の妻になること。幼い頃からそれを望んでいるの。現状のリオは上位貴族になっただけで、英雄にはほど遠いのだから。
「あーあ、英雄様が現れないかしら?」
最強の剣士が求婚してくるのなら、私は二つ返事で了承するはず。今は少しも男っ気がないから、リオに執着しているんだわ。
「悩んでも仕方ないわね。どうせ行き遅れですから……」
それはそうと高溶解炉。幾ら風を送っても、まるで熱が籠もらない。普通の鉱石であれば溶けているはずなんだけど、生憎と超上質な鉱石は原形を留めたままです。
「そういや、リオは鍛冶用の魔法を炎の祠で授かったと話してたわね」
ここで思い出すのはリオの証言。北街門から一時間ほど北上したところに炎の祠というものがあって、そこに住む精霊が火属性魔法を授けてくれるのだとか。
「行ってみよう。リオと会えば操を奪われるし、自分でできることを頼む必要もない」
聖剣と呼ばれるような剣を打ちたい。それは結婚相手の条件と同じく私の夢でした。
だから、一人でできるのなら一人で。私だけの力によって成し遂げてみたい。
「武器はナイフしかないけれど、大丈夫よね。王都からそれほど遠くないらしいし、街道沿いだって聞いた。魔物はそれほど現れないはずよ」
街道沿いであれば衛兵の巡回もあるし、何より行商や冒険者も多く使っている。
万が一、魔物が現れて苦戦したとしても、誰かが助けてくれると思う。
「よし、行くだけ行ってみよう。無理なようだったら引き返せば良いだけだし」
私は割と軽く考えていたのです。
一人で街門の外に出たことなどなかったというのに。
何の問題も起きないはずと、馬鹿な私は信じていました。
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