第71話 変わらずに
「リオ、養子縁組の申請が通ったのじゃ」
ええ? 早すぎない!? もう、そんな話になってるのかよ?
それって昨晩、決めた話じゃないか。
「おいおい、父上に許可は得ていないだろ!?」
「いや、昨日のうちに連絡はしておる。ワシが直々に通話したので、何の問題もなかったわい。金貨百枚で了承を得たのじゃよ」
ああ、そういうこと。
財政が苦しいスノーウッド男爵家だもんな。既に追い出した息子で金貨百枚が手に入るのなら、即決したことだろうよ。
「今から王城に登録へ向かう。リオは工房の手伝いでもしておれい」
言ってガラムは工房を出て行く。
俺はこのあとどうなってしまうのだろうな。
呆然としていると、ルミアが俺の肩を叩く。
「リオさん、ガラム様の養子になるのですか!?」
どうやら驚くよりも興味津々であるみたいだ。きっとルミアには同じ貴族として見えているのだろう。下位貴族と上位貴族には明確な差があったというのに。
「ま、そうなる。俺がやりたいこと。すべきこと。何をするにしても権力が必要だと言われた。悪くない話だったからな」
「リオよ、ならば修行はどうする? 辺境伯の一員になるのだから、もう辞めてしまうのか?」
少しばかり声のトーンが低い。師匠はそんなことを望んでいないのだろう。
「いえ、俺は今までと変わりません。良ければ住み込みで修業させてください。ただ、用事で修行できない日は出てくるような気がします」
「うちは構わん。ガラム様さえ良いのであればな」
一応は今まで通り。俺はこれからも修行をし、貴族とは思えぬ生活を続けるだけだ。英雄になるのはまだまだ先の話なんだから。
「それにルミアも喜ぶ。何なら、ずっと居てもいいのだぞ?」
「おおお、お父さん!?」
何だか、よく分からんが、ずっと居てもいいのなら俺は世話になろう。
いつか恩返しといえるほどの自信作を製作し、それを師匠に託すことができるまでは。
「でも、辺境伯になるっていうのに、リオさんは変わりませんね!」
「んん? 俺は育ちが悪いからな。正直に身の丈に合っていない。昨日は姫様にお会いしたけど、絶対に住む世界が違うと思ったし」
「ソフィア姫殿下にお会いしたのですか!?」
「ああ、姫様が主催するパーティーだったからな。一緒にダンスしたりした」
俺は昨日あったことを口にしただけだ。
だというのに、ルミアの顔は青ざめて、何度も首を振っている。
「リオさんの晩ご飯だけ、おかずなしにしますね?」
「ええ!? パンだけかよ!?」
「昨日、ご馳走を食べたのですから、パンだけで充分です!」
プイッと顔を背けるルミアに大笑いするドルース師匠。
一体、何なんだよ? 女の子は本当に難しいな。
俺が気に触る話でもしたか?




