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第007話 一番の輝き

「えっと、ユノさん、とりあえず換金を……」


「そうでしたね! こちらへどうぞ!」


 言ってユノは奥にある部屋へと俺を案内してくれる。


 正直に助かった。あのまま失笑の中にいると、俺のフラジールハートは粉々に砕け散ってしまうからな。


「本部長、このレインボーホーンラビットを査定してもらえますか?」


 何と解体部屋の主人は本部長らしい。人員不足とは聞いていたけれど、本部長自ら解体してんのな。


「初めまして、俺はリオ・スノーウッドって言います」


 当然、会うのは初めてだ。

 最初に倒した唯一の魔物であるスライムは核石を受付で手渡しただけだし、解体の必要なんてなかったからな。


「おう、俺が本部長のライマルだ。しっかし、レインボーホーンラビットと戦闘になるとか、よく冒険者になったなぁ?」


 まぁたディスられてんよ。


 俺だって好きで冒険者を始めたわけじゃないっての。俺の好きな人が武器や防具を売りつけてくるから、資金繰りに困っただけなんだよ。


「本部長、それで幾らくらいになるのですかね?」


 俺よりも早くユノが聞いた。


 目を輝かせている彼女を見ると、ひょっとしてとんでもない査定が飛び出すのかもしれない。


「うむ。とても状態がいい。基本的にコイツは逃げるから遠距離魔法や弓で仕留めた個体しか出回らん。毛皮だけでも、金貨単位だろうな……」


「えええ!? リオさんはまだ駆け出し中の駆け出しなんですよ!?」


「そう言われても、そういう査定だからな。新人だろうと俺は誤魔化さねぇよ」


 ライマル本部長、カッケーです。散々、笑われた価値もあるってものだ。


 これなら、装備を一新できるかもしれない。旅立ちのとき、父上に持たされて以来の金貨だなんてな。


「角に関してはちょうど依頼が来ている。応相談とのことだが、金貨五十枚からスタートになるな」


 ウッソだろ?

 野宿確定冒険者の俺が金貨を何枚も手に入れるなんて、どんな幸運なんだ。


 弱くて幸い。最弱って実は最強なんじゃねぇか?


「リオさん、わたしこれから仕事上がりなんです! 何かご馳走してくれても良いんじゃないですか?」


 上目遣いでユノ。いや、エレナに出会う前だったら、飛びついただろうけどな。


 ギルドのアイドルを手に入れるのは吝かではないけれど、生憎と俺は高嶺に咲く花を見つけてしまったんだ。


「悪い。俺には用事があるんだ。絶対に外せない重要なことがね……」


 やはり俺は手を伸ばすだけ。どれだけ険しい頂に咲いていようとも、俺はその花を愛でたい。可憐に咲くその花を手に入れたかった。


「リオ、とりあえず金貨一枚を手付けとして支払っておく。残りは相手方の意向もあるので現状ではそれだけだ」


「ありがとうございます! 一文無しだったんで、本当に助かります!」


「ああ、最弱も悪くないようだな?」


 最後の言葉が引っかかるけれど、とにかく俺は金貨一枚を手に入れた。


 急いで向かうべきは勇ましき戦士の嗜み。エレナが経営する武具工房に他ならない。


 ギルドを飛び出した俺はメインストリートをひた走る。滅茶苦茶に腹が減っていたけれど、俺には飯を食うよりも会いたい人がいるんだ。


「エレナ!!」


 扉を開くや、大声を張る。

 しかし、エレナは店先にいない。ならば、俺から巻き上げた銀貨二枚で鉱石の仕入れでもしているのかも。


「あら? リオってば早いのね? どうだった?」


 どうやら外出中ではなく、彼女は作業場にいたようだ。


 空色をした美しい髪を後ろで結わえている。往々にして彼女がこの髪型なのは鉄を打っていたからに他ならない。


「ああいや、あれは駄目だ……」


「またまたー。名匠による傑作なのよ? ドラゴンでも倒した?」


 相変わらずエレナはゴミを製造したことを認めようとしない。加えて、ドラゴンの強さも分かってねぇよ。


 俺は子リスにしか戦いを挑まないレインボーホーンラビットと戦闘になるほどの弱者。そもそも前衛職ではないことを理解して欲しいぜ。


「馬鹿言うな。ま、今日は金貨一枚を稼いだ……」


 ここは自慢げに語っても構わないだろう。


 何しろ嘘ではない。子リス認定されようとも、金貨を稼いだ事実は覆らないのだ。


「凄いじゃない! やっぱドラゴンを仕留めたのね!?」


「いやいや、ドラゴンなら白金貨単位だっての……」


 ここが勝負所だ。金があるのは分かってもらえた。あとはオーダーメイドを受けてもらうだけ。彼女の手を握って頼み込むんだ。


 それって自然だよな? 俺は注文するんだし。

 エレナの手を握って、ジッと見つめても犯罪じゃないよな?


(ええい、男は度胸だ!)


 俺は重い一歩を踏み出し、エレナの手を握るべく近付いていく。ところが、エレナは後ずさりをして、距離を保とうとする。


(え? 俺って嫌われてる?)


 そうとしか思えない。

 一定の距離を保とうとするなんて、俺のことが嫌いに違いない。


 めちゃ心にダメージだぜ。こんなことなら、ユノの誘いに乗って、彼女とディナーデートをしていたらと考えてしまう。


「ごめん……。やっぱ身分も低いし、俺じゃ駄目だよな……」


 きっぱりと諦めよう。

 このあと聖地母神教会へと向かい神職者として働くことにする。子リスには安穏とした空間がお似合いなんだ。


 だが、俺の言葉をどう受け取ったのか、エレナは顔を振って否定するような感じ。


「いやいや、近付かれちゃ嫌なだけだよ。今、汗臭いし……」


 えっ? 汗臭いのが気になって離れただけ?

 じゃあ、俺のことが嫌いってわけじゃ?


「エレナの汗なら大歓迎だよ! ほら!」


 まあそれで俺はやらかしていた。

 まだ手も握ったことがないというのに、俺はエレナを抱き寄せていたんだ。


 無意識だったけど、気が付いたときには彼女を引き寄せていた。もう既に頭は真っ白で思考が追いついていない。


「ちょちょ、リオ!? 本当に臭くない!?」


 頬を染め動揺するエレナを見ると、本当に俺は嫌われていないのだと思う。だって、嫌いだったらさ、突き放すところだろ?


 俺は返事をせず、ただ彼女を抱きしめている。

 まあ本当に、未経験の馬鹿者らしい行動だ。彼女の意志を確認することなく、抱擁してしまうなんてさ。


 だけど、間違っちゃいない。

 この瞬間は俺の人生で一番の輝きを放っていたのだから。

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