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第70話 初めての鍛錬

 俺とガラムは試し撃ちのあと、鍛冶工房スミスへと来ていた。

 二人して現れたことにルミアは驚いていたけれど、いつもの笑顔を直ぐに戻している。


「リオさん、昨日はパーティーに参加したんですよね? 流石は貴族だなぁって思いました!」


「ああいや、俺は参加者で一番身分が低かった。そんな華やかなものじゃないって」


 一応は貴族である俺だって戸惑う世界だ。

 ルミアには少しですら想像できなかっただろうな。


「ガラム様、お送りいただいたミスリルは本当によろしかったので? 最高級品じゃないですか?」


 ドルース師匠も出迎えてくれる。

 既にガラムはミスリルを送り届けていたようで、その品質に師匠は恐縮しているらしい。


「構わんぞ。金だけは持っておるからの。余った分は工房で好きに使うがよい」


 流石は太っ腹だぜ。

 そもそも失敗を考えての量なんだろうが、木箱一杯のミスリルなんてどこで調達してきたのかな。


「早速と作業を始めてくれい。安全は保証させてもらうが、万が一のこともあるでの。火力が強すぎたなら、ワシの氷魔法にて温度を調節する」


 そういやガラムは雷氷の大賢者って呼ばれてたな。氷属性を操るなら温度を下げることくらい簡単なのかもしれない。


 完成したばかりの極耐熱溶解炉にミスリルを投入し、事前の準備は整った。


 あとは俺が火をくべるだけである。


「リオ、先ほどと同じ炎を生み出せ……」


 ガラムの指示に俺は頷く。

 つい先ほどの話だ。思い出すのは別に難しい話じゃない。まだ手の平に残る感覚を再現するだけで良かった。


「いくぞ……」


 再び集中をする。

 間違っても工房を破壊してはならない。慎重に確実に俺はフレイムを唱えねばならなかった。


 先ほどと同じ感覚。手の平が破裂寸前になるまで、俺は圧縮を続けるだけだ。


「きた……」


 手の平に痺れを感じる。先ほどもこんな感覚であったことを思い出す。ならば、もう充分だ。失敗したとして、ガラムがいる。俺は格好良くフレイムを撃ち放つだけだぜ。


「フレイムッ!!」


 発現場所は狙い通り。溶解炉の下部にフレイムの炎が灯る。

 この分だと、ガラムの助けを必要としないはず。


「リオ、続けて撃て! ミスリルは一筋縄ではいかんぞ!」


 ここで次なる指示があった。

 まだフレイムは燃え続けていたけれど、ミスリルを溶かすには何発か必要らしい。


「クソ、フレイム!!」


 俺は指示通りにフレイムを連発している。

 このあと五発を撃ち放ち、ようやく終われとの声がかかった。


 直ぐさま師匠がヤットコにて取鍋を掴む。熱されたミスリルを型へと流し込み成形。水で固めてから再び熱する作業へと入った。


 しかし、此度はもうフレイムを必要としない。成形されたミスリルを鍛錬するために熱を与えるだけだ。

「リオ、思い切り打て!」


 師匠の合図で俺は大槌を振り下ろす。


 初めて打つミスリルであったけれど、溶解した今の状態であれば鉄と大差はない。スキルの助けもあって、俺は難なく鍛えることができた。


 熱しては鍛錬の繰り返し。ミスリルに含まれる不純物がなくなるまでそれは続いていく。


 何時間が経過しただろう。師匠がストップをかけるまで、本当に長い時間を要していた。


「うむ、とりあえず一歩進んだな」


「まだ一歩なんですか?」


「当たり前だろう? インゴッド一つでミスリルの杖など作れん。最低でも十個用意し、それを成形していくのだ」


 マジっすか。素材を用意するだけで軽く十日はかかってしまうじゃないか。


 俺が嘆息していると、妙な音が工房に響き渡る。


「むぅ、ワシの通信具じゃな?」


 音の発信源はガラムだ。何と彼は携帯式の通信具を持っているらしい。

 父上が欲しがっていたけれど、母上に必要ないと一蹴された高級品である。


「もしもし、ワシじゃ……」


 俺たちが聞いて良い会話なのか分からないけれど、聞こえてしまうのだから仕方ねぇよな。


「ああ、分かったのじゃ。王都にいるので直ぐに向かう」


 割と手短な話のよう。どうやら、ただの呼び出しであったらしい。


 懐に通信具をしまい込むと、ガラムは俺の方を向く。また彼は心の準備もしていない俺に告げてしまうのだった。


「リオ、養子縁組の申請が通ったのじゃ」


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