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第69話 最後の練習

 翌日、俺は王城を出たところで、ガラムに捕まっていた。


 かといって、別に拘束されたわけじゃない。そろそろミスリルの鍛造を始めなさいと俺は指示されている。


「工房を破壊するなんて嫌だぞ?」


「ならば、街門の外へ行ってみるぞ? 付き合ってやるから撃ってみるのじゃ」


 父となる人の話なので無視するわけにもならない。まあ別に急いで戻る必要もないので俺は従うことにした。


 街門を出て直ぐ。どうしてか俺たちは立ち止まっている。


「おい、王都に近いと捕まるかもしれないぞ?」


 流石に近すぎる。門番たちと会話できる距離で試すなんてトラウマが蘇ってしまうじゃないか。


「ワシがおる。兵にも話をしているし、何の問題もない」


「マジでぇ?」


 ガラムの権力は既に嫌というほど理解していたけれど、この一帯を焼け野原にしたのなら、何らかの罰があるようにしか思えない。


「そこにある岩の上にフレイムを出すのじゃ。圧縮をし、範囲を限定。無意識に放つと周囲を焼き尽くしてしまうぞ?」


 魔法のコントロールはずっと言われ続けていたことだ。


 しかし、狭い部屋の中では直ぐに消失してしまうし、上手くできているのか俺には分からなかった。


「集中だな……」


 魔力を練るところから集中がいる。散漫になってしまうと放出される際に拡がってしまうんだ。


「イメージする色は赤。心の内に思い浮かべるのじゃ」


「赤? どうしてだ?」


 これは聞いたことがない指示だ。従って俺は何も理解していない。


「熱を威力とする魔法は色の指定により威力を変えられる。炎であれば無色ほど熱を帯び、色味が増すほどに熱は失われていく。炉に火をくべるのであれば赤じゃ。リオ以外の上位魔法士であれば指定の必要はないが、お前さんのフレイムは一級品。熱を抑えねば破壊してしまうじゃろう」


 なるほどね。イメージするだけでコントロールできるのなら、難しくもない感じだ。

 赤い色を心に思い浮かべながら、俺はフレイムを撃ち放ってみる。


「フレイム!」


 掲げた手の平に集中する。魔力が拡がってしまわないように。赤い炎を灯せと。


 刹那に魔力が失われ、腹の底から手の平へと魔力が伝達していく。こんな今も集中し、魔力を適切な量とするために調整を施す。


「いけぇぇぇっ!」


 視界には赤い炎が現れている。しかし、想像したよりも大きい。

 両足で上に立てるほどの岩だったが、優に二倍の大きさである。


「あっ……」


 瞬く間に岩は溶けてしまう。焼け焦げる音がしたあと、炎と共に消失していた。


「むぅ、もっと圧縮させい。次はあの岩を狙え。イメージはもっと深い赤じゃ。ドス黒い血を模したかのような……」


 言葉にするのは簡単だ。けれど、魔力の圧縮形成は考えていたよりも難しい。


 俺は集中し直して、再び魔力を練り上げる。


「もっと小さく。これができなきゃ鍛冶の修行が終わらねぇんだ……」


 スミスに設置された極耐熱溶解炉とは異なり、エレナの工房には高溶解炉しかない。もっと熱を抑えるようにしないと、瞬時に破壊してしまうはず。


「ちくしょう。もっと圧縮……。もっと深い赤だ……」


 集中力は最大限にまで達していただろう。

 魔力が手の平で凝縮している。早く解放しないと、手の平が爆発してしまいそうだ。


 俺は限界まで我慢をして魔力を練り上げる。イメージは萌えるような夕焼け……。


「フレイム!!」


 放たれた炎。先ほどよりもかなり小さい。加えて、色もイメージ通りだ。


 これなら岩を溶かさずにいられるかも……。


 焼け焦げる音が周囲に木霊する。大きさは想定通りだけど、熱は考えていたよりも高いのかもしれない。


 炎が消失したあと、半分ほど溶けた岩が視界にあった。


「失敗した……?」


 これ以上に抑えるなんて無理じゃないか?

 俺は今、最高の集中力を発揮していたというのに。


「いや、今ので合格じゃ。恐らくリオのフレイムでコントロールできる最小じゃな。熱は問題ないぞ? 岩くらい溶かさねば、ミスリルは鉱石のままじゃからな」


「マジで!? 今のでいいのか!?」


 確認には頷きが返されていた。


 よっしゃ、俺はフレイムを完成させたんだ。

 高威力から弱威力まで。コントロールできるようになったはず。


 今しがたの感覚は絶対に忘れないようにしないと。

 本番で炉を破壊だなんて笑えないんだし。


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